日本最古の天守が見守る、歴史と自然溢れる城下町・犬山

犬山市は、国宝の犬山城や重要文化財に指定されている日本庭園・有楽園の茶室「如庵」があり、歴史の趣を感じられるまちです。また、木曽川や里山といった自然に囲まれつつ、都市部へアクセスしやすい特徴もあります。観光を主要産業としながら、近年では"「来るまち いぬやま」から「住むまち いぬやま」"をスローガンに、移住・定住を促進する取り組みを進めています。

今回は、犬山市をよりよいまちにしたいという熱い思いを持った原欣伸(はらよしのぶ)市長にインタビューを実施。定住・移住支援や子育て支援、高齢者施策に力を入れている背景や未来への展望について伺いました。

誰もが生活しやすい「ちょうどいいまち」犬山

── 犬山市はどのようなまちでしょうか?

犬山市は「ちょうどいいまち」です。まちの大きさや人口、都市の利便性と自然の調和がとれた環境など、どれをとっても、ほどよいのです。木曽川や里山に囲まれており、歴史的建造物や文化遺産が多く残ります。中でも、国宝・犬山城は、全国から観光客が集まるシンボル的存在となっています。

市内には7つの駅があり、名古屋や岐阜への移動が大変便利です。また、国道41号の6車線化が完了し、車でのアクセスもさらによくなりました。

一方で、自然豊かな里山の活用にも力を入れています。高度経済成長期以降、里山には人々が立ち入らなくなり、草や木は生え放題の荒れた区域となりました。そこで、2024年には森づくり活動に関する協定を締結しました。この協定によってさまざまな調査がおこなわれることで、健全な里山に戻す動きが広がりつつあります。ボランティアの方も活動に参加してくださっており、これからも地域を巻き込みながら、みんなで活動していきたいですね。

また、犬山市は災害に強い特徴があります。南海トラフ地震の被害想定では、県内で最も少ない地域とされていますその理由は地盤の固さです。犬山城という歴史的建造物が長年残り続けていることからも、その地盤の強さがわかります。

写真:犬山城
現存する日本最古の天守「国宝犬山城」

「持続可能な観光」を目指す

── そんな「ちょうどいいまち」の犬山市ですが、課題はありますか?

犬山市は観光資源が多く、国内外から観光客が集まっています。昨年1月には外国人観光客の増加率が、前年対比で犬山市が全国1位になるなど、外国人をはじめ多くの来訪者が犬山を訪れていただいております。
一方で観光客が増えることに伴い、いくつか課題も生まれてきます。
発生する課題への対応として、令和6年度より市の観光駐車場では、観光ハイシーズンの休日を特定日と設定し、駐車場料金を改定することで、駐車場利用を抑制し、公共交通機関での来訪を促す取り組みを開始しており、改定に伴い増えた収益については、市民と観光客との調和を図る環境を整えるために活用していく取り組みを開始しました。

また今後は、観光税等の導入など、観光と地域の共生を目指していきます。犬山市には多くの観光資源があり、それに伴う経済効果を地域の活性化に活かすことができます。持続可能な観光のあり方を考えながら、まちづくりの柱として観光を位置付けていく必要があると考えています

旧磯部家住宅復原施設外観の写真
国登録有形文化財「旧磯部家住宅復原施設」

手厚い子育て支援が拡充。全国2番目の「完全ZEB化」保育園の誕生

── 犬山市が子育て支援に力を入れている背景について教えてください。

現在、市の人口は約7万1,000人ですが、2040年には6万2,000人まで減少すると予測されています。対策をとらなければ、この流れはさらに加速してしまうでしょう。犬山市の未来を見すえたとき、子育て支援の充実は欠かせないものなのです。

特に、多子・多胎世帯への支援には力を入れています。たとえば、第3子以降の3歳未満児の保育料や学校給食費の無償化を実施しました。また、お米配布事業として、犬山産の「あいちのかおり」を年に1回配布。よりおいしく食べてもらえるよう、市内の大学の学生と協力して作成したレシピも添えて配ります。

しかし、子育ては多子・多胎世帯に限ったことではありません。お子さんの人数にかかわらず、すべての子育て世帯が安心して暮らせるまちにしたい。そのため、給食費無償化の範囲拡大にも取り組んでいます。本来ならこうした支援は国が取り組むべきかもしれませんが、犬山市としても積極的に発信し、できることを進めています。

また、現在では新生児訪問を実施していますが、小学校入学前までの長期的な支援ができる体制を整えているところです。子育ての悩みは産後だけではありません。周りに相談できる人がいないと、孤立してしまう方もいらっしゃるでしょう。そういった方々もサポートできるよう、対象期間を拡大させていきたいと考えています。

あわせて、今後は「子どもの権利条例」の制定にも取り組み、徹底的に子どもを守り抜いていきます。虐待によって、子どもの命が奪われることはあってはなりませんから。

学校給食では、すべて自校方式を採用していますので、毎日温かい食事が提供可能です。また、子ども未来園(保育園・認定こども園)は全園芝生化しました。裸足で運動会ができると好評です。

令和7年4月に開園予定の子ども未来園では、全国で2番目の試みであるzeb化」(建物のエネルギー消費を大幅に削減し、エネルギーの収支ゼロを目指すことが実現します。子どもたちがのびのびと過ごせる場所を作り、健やかな成長を支えていきたいですね。

さらに、駅近くのテナントを活用した、屋内型キッズスペースを令和8年にオープン予定です。電車・車ともにアクセスしやすく、買い物ついでに気軽に立ち寄れる場所に作ります。私は企画の段階で「子どもだけでなく、保護者の皆さんにも楽しんでもらえる場所にしてほしい」とお願いをしました。

子どもはあそびの天才ですから、場所があれば楽しく遊べます。しかし、その天才を連れてくるのは、保護者の皆さんです。保護者の方に楽しいと思ってもらえなければ、天才たちにも足を運んでもらえません。大人も子どもも面白いと思ってもらえる施設を作っていきますので、楽しみにしていてください。

ライドシェア導入で新たな交通支援。外出が高齢者の元気の秘訣!

── 市役所内のカフェには、元気な高齢者の方がたくさんいらっしゃいました。高齢者支援について教えてください。

犬山市の高齢化率は、現在3割弱です。国や県と比べても高い水準ですが、私たちは高齢者が増えること自体をネガティブに捉えていません。これまでの日本を築き上げてこられた大先輩たちなので、今後も元気に暮らしていただくことが大切だと考えています。

高齢者のみなさんからは、移動手段の拡充やコミュニティスペースの確保を求める声を多くいただいています。現在、市内には140か所の高齢者サロンがあり、地域の方々が自主的に立ち上げ、運営してくださっています。本当にありがたいことです。こうした場を、もっと活用していきたいと考えています。

また、移動支援については、コミュニティバスの拡充も検討しましたが、運転手不足や働き方改革の影響で減便せざるを得ない状況でした。そこで、タクシー事業者と協議を重ね、タクシー補助の充実によって高齢者の外出を支援する仕組みを整えていく方針です。おじいちゃん・おばあちゃんが元気でいる秘訣は、「おしゃれをして出かけ、人と会っておしゃべりすること」ですからね。

令和6年度からは、タクシーの初乗りチケットをお渡しする対象年齢を、85歳から75歳までの免許を持っていない非課税世帯の高齢者へ引き下げます。なお、議会の承認が得られれば、令和7年度から年間1万2,000円分のタクシーチケットを85歳以上で非課税世帯の方々にお渡しする計画も進めています。

加えて、新たな取り組みとして、ライドシェアの導入も進めました。民間バスの減便で通勤・通学に支障が出た一部地域のために、自家用車による有償運送サービスを開始しました。まだスタートしたばかりで手探りのところはありますが、今後しっかりと検証していきます。

ライドシェアに使用している10人乗りのハイエース

来る人も出ていく人も、どちらのご縁も大切にしたい

── 移住・定住に関する取り組みについて教えてください。

一般的な役所では、問い合わせ内容によって窓口が異なるため、あちこち回る必要があります。特に、移住や引っ越しを考えている人にとっては、どこへ行ったらよいかわからず、迷う方も少なくないでしょう。犬山市では、住民移動に伴う手続きを、1つの窓口で対応できるようにしました。不動産協会とも連携し、住まいの紹介ができる体制も整えています。

移住支援として、100km以上離れた地域から犬山市に移住される方には、50万円の支援金を交付する「これからいぬやま応援団」制度を開始しました。こちらはボランティア活動など、まちの活性化につながる活動をしていただける方に向けた制度です。

また、犬山市内に親御さんのいらっしゃる方が新たに家を購入する場合や、リフォームした際に利用できる「犬山市ふるさと定住促進サポート事業補助金」も用意しています。年間17件の申請を想定していましたが、30件ほど利用される年もありました。

一方で転出される方にも、犬山とのご縁を大切にしてもらいたいとの思いから「ずっといぬやま応援団」という制度をスタートさせました。犬山から転出される際に登録していただくと、年に2回、手紙で犬山のPR情報をお送りします。転出される方は、何らかの事情で犬山を離れることになったかもしれませんが、そこで縁を断ち切ってしまったらもったいない。このご縁を大切にしたいですし、「また、犬山に戻って住みたい」と思っていただけるきっかけを作りたいと思っています。

中京テレビハウジング小牧で行われたイベント「このまちにすみたい」にブース出展

── 空き家トラブルが全国で問題になっていますが、犬山市ではどのような対策を取られていますか?

空き家問題にも取り組んでいます。3年前の調査では、約800件の空き家が確認されました。空き家の判定基準は自治体によって異なりますが、犬山市では比較的厳しく設定しています。今後は、全国でも例を見ないような手厚い支援策を導入し、空き家の活用を進めていく予定です。

たとえば、犬山市の空き家に引っ越していただいた場合、要件を満たせば補助金を申請いただけます。それに加えて、若い世代にはプラスいくら、多子家庭ならプラスいくらと、さまざまなバージョンアップを考えながら、新しい事業展開をしていけたらと考えています。今は物価も高くなっていますので、中古車を選ぶように、お値打ちな空き家を選んでいただけたらうれしいですね。

犬山市は、住む場所の選択肢が多いまちです。都心部も自然豊かな地域もあり、それぞれのニーズに合わせて選んでいただけます。「もし犬山に住むならどこがおすすめですか?」と聞かれたら、「すべての地域をおすすめできる」と、自信をもって答えられますよ。

キーワードは市民ファースト!時代に応じた柔軟なまちづくり

── 今後、原市長が目指す犬山市についてお聞かせください。

犬山市は「市民ファーストのまち」を目指します。今後はコンパクトシティを視野に入れて、市民の皆さんが歩いて生活できるまちづくりが、必要です。そのためには、今あるルールを変えなければならないこともあります。ルールとは、絶対的なものではありません。時代に応じて、柔軟に見直していくべきだと考えています。

犬山市は調整区域(森林保護などにより、原則として建物が建てられないエリアのこと)が多い自治体です。しかし、県との交渉で規制緩和したことにより、スーパーやドラッグストアの進出を可能にしました。これは、愛知県内の自治体では初の試みです。これからも、世の中の変化に合わせて、新しいまちづくりを進めていきたいですね。

一方で、どれだけ時代が進んでも「人と地域を大切にすること」だけは、絶対に変えてはいけないと思います。たとえば、全国的には小規模校の統廃合が進められていますが、それは、犬山市にとっては手を尽くしたあとの「最終手段」です。学校教育は、地域との関係性を学ぶ場でもあります。単に「数」だけを見るのではなく、学校教育の適性を第一に考えていきたいと考えます。

市長就任以来、私は城下町に暮らす皆さんと定期的に対話を重ねてきました。最初は、ご意見をたくさん賜りましたが、徐々に「私たちに何かできることはない?」「もっと一緒に考えていこう」と、前向きな声をいただけるようになりました。それが、とてもうれしいですね。こうしたやり方は変化しましたが、人と地域を重んじることは、やはり変わりません。

「近き者説び(よろこび)、遠き者来る」

これは孔子の論語にある言葉です。近い人が喜んでこそ、遠い人も多く来てくださるという意味ですが、まさにその通りだと思っています。地域の皆さんに「住み続けたい」「住んでみたい」と思っていただけるような、優しく元気な犬山を目指し、できる限りのことに全力で取り組んでいきます。

愛知県犬山市長
原 欣伸はら よしのぶ
昭和43年8月31日生。平成3年3月日本体育大学体育学部卒業。平成15年に犬山市議会議員、平成19年に愛知県議会議員に初当選。県議時代には、愛知県議会地域振興委員会委員長、自民党愛知県連幹事長などを歴任。令和 4年12月に犬山市長に就任。
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