「自然が豊かで災害が少ない!子育てするなら南足柄」と言われる『南足柄』を目指してまいります

神奈川県西部に位置する南足柄市は、山々に囲まれ、緑豊かなまち。県内の市で初めて小中学校の給食費無償化を実現させた自治体としても注目を集めています。

今回は、平成23年から市長を務め、現在4期目の加藤修平市長にインタビュー。このまちで生まれ育った加藤市長が見る南足柄市の魅力、そして力を入れている子育て支援についても伺いました。

富士フイルム創業の地。歴史と自然あふれる南足柄市

──南足柄市はどんなまちでしょうか?

都心から約80km、神奈川県の西端に位置し足柄山塊に抱かれた南足柄市は、天与の自然と歴史、文化、そして産業が調和しています。温暖な気候で風水害も少ないことから、安心して暮らせるまちですよ。

小田原駅から大雄山線の電車に乗ると、みるみるうちに車窓から見える雰囲気が変わるのを感じるのではないでしょうか。

箱根外輪山が見え、狩川の橋を渡るとすぐ左前方に富士山が見えるーーその先に待っているのが、『南足柄市』です。

──南足柄市といえば、大雄山最乗寺も。

この地域の発展を語るのに、「大雄山最乗寺」の存在は欠かせません。

昔の庶民の楽しみの一つは、神社仏閣をお詣りすることでした。大雄山最乗寺を参拝する多くの人々がいたおかげで、まちは栄えてきました。明治22年に東海道線が利用できるようになってから、目的地の道中となる道にはさまざまな商売が生まれ、地域はさらに活性化してきたんです。

また、さらに昔の話でいえば「古事記」や「万葉集」「更級日記」「海道記」などの史書にはこの地が宿場町として賑わったとも記されています。

「足柄」は古くから知られている、非常に歴史のある地名なんですよ。

──自然と歴史に恵まれた土地なのですね。その自然が、産業の発展にも一翼を担ったと聞きました。

そうなんです。そんな自然に恵まれた南足柄市の良質で豊富な水と緑が決め手となり、今から90年前、昭和9年に「富士写真フイルム株式会社」(現在の「富士フイルム」)が創業しました。

そうして第一次産業・第二次産業が発展することで、観光をはじめとする第三次産業も盛んになる。

水と緑に育てられながら企業とともに今日まで成長してきたのが、南足柄市というまちなんです。

「都心へ通勤、週末は田舎暮らし」「自然豊かな土地で子育て」という想いで移住する人も

──富士フイルムも、南足柄市の自然に目をつけたのですね。

人口が多すぎず、自然に恵まれて落ち着いていることが重要だったのだと思います。

そう考えると、住む人の数や人々の往来がどんどん増えることが市としてのひとつの願いである一方、多すぎない人口と落ち着いた雰囲気というのは、今後も大切にしていきたい南足柄市の大きな魅力と言えます。

また、自然豊かな市ですが、電車では約1時間30分、車なら東名高速道路を利用して約1時間ほどで都心へ出ることができます。

「平日は都心へ通勤、週末は田舎暮らし」を味わうこともできますし、最近ではリモートワークを活用し都市部から移住される方もいらっしゃいます。

特に、「自然豊かな土地で子育てがしたい」という想いで移住される方もいらっしゃいます。

給食費、医療費の無償化へ。県内トップレベルの子育て支援施策とは

──南足柄市は、子育て支援が手厚い印象があります。施策について、具体的に教えていただけますか?

まずは、小児医療費助成による「医療費の無償化」です。現在の南足柄市では、18歳までが医療費無償の対象となっています。令和5年11月より、それまでは中学校卒業までだった対象を18歳までに拡大しました。

加えてお話したいのが、「にこっと」。 令和4年4月11日にオープンした子育て支援の拠点施設です。児童福祉施設でありながら、子育てに関するサービスや手続き、相談もできる施設になっています。

国はこども家庭庁を創設し、市町村に母子保健機能と児童福祉機能の一体的な相談支援体制の整備を求めています。「にこっと」はこれに先駆けて、体制整備をはかったものです。

同じ子育てに関する手続きや相談でも、これまでは医療は医療、福祉は福祉というように分野によって窓口がバラバラな状態でした。

それが、にこっとに行けばすべての相談をワンストップですることができ、さらには手続きをしているそばでお子さんを遊ばせることもできる。そのような施設をオープンしたのは、南足柄市が神奈川県内では初めてなんです。

実は、「にこっと」という名前は市民の皆様からの公募で決定しました。また、木質でできている施設内の遊具や柱も、市民の要望を形にしたものなんです。そうして形になり、今までのべ9万5000人の方に利用していただいています。

──神奈川県内初といえば、給食費の完全無償化も記憶に新しいですね。

令和6年4月から、小中学校の給食費完全無償化をスタートさせました。おっしゃる通り、神奈川県内の市としては初めての実施です。

実は、南足柄市は戦後10年も経たないうちに小学校の給食をスタートさせたという歴史があるんです。

それも、学校ごとに給食室を設ける自校方式。児童たちができたてで衛生的な給食を毎日食べられる環境を戦後まもなく整えたのです。南足柄市出身の私も、実際にその給食を食べていたんですよね。

そうして3年ほど前から、子育て・教育支援として実施するなら何が良いのだろうと考えていたときに、先人たちが実施してきた給食のことを思い出して。次は、無償化に踏み切ろうと動き出しました。まさに温故知新の想いであります。

実際に、子育て世代からは嬉しい声をいただいています。先日顔を出した市内の祭りでも、直接声をかけていただいて。聞くと、3人の子どもを持つお母さんなんですよ。『一人につき5000円の給食費がなくなったことで、毎月1万5000円も浮くようになったんです』と。

一人につき5000円でも、重なれば相当な負担になりますよね。そこをサポートすることで、より住みやすい・子育てがしやすい南足柄市に近づいていければと思っています。

時代は核家族化。だからこそ地域の支えが大切

──そのほか、施策・支援はありますか?

周産期医療・産後ケア事業にも力を入れています。出産後の育児、授乳などの困りごとをサポートするための取り組みです。

南足柄市では、妊娠届を出したその日から、産前・産後・子育て期までのさまざまな不安に寄り添い、安心して育児ができるよう「出産・子どもネウボラ事業」として、保健師や助産師などと連携して相談に応じられる体制を整えています。

気軽な相談という点では、スマートフォンを活用して相談ができる「産婦人科・小児科オンライン医療相談」を令和4年度から実証実験を行い、令和5年度から導入。

たとえば「子どもが熱を出したので医療機関を受診したほうがいいか」など、ちょっとした相談を24時間いつでもできます。こちらは保護者の方々にも大変好評いただいています。

産後ケアについては、これまで実施してきた居宅訪問型に加え、令和6年度からは通所型を実施しています。訪問型と通所型3時間コースは自己負担なしで、通所型6時間コースでも500円で利用できるようにしました。

現代では、核家族化が進んでいます。親子3世代で暮らすことが当たり前だったこれまでは、お母さんやおばあちゃんなど、すぐそばに頼れる家族がいた人も多かったでしょう。

しかし核家族化が進んだ今は、気軽に相談できる人や頼れる人がすぐ近くにいない人も多いはずです。

そんな背景から、社会が一体となって子育てや出産をサポートする場を作っていく必要があると考えています。そして、率先してその場作りをするのが自治体の役割なのではないかと考え、妊娠から出産、子育てまで一貫してサポートする制度を作りました。

財政の健全化に奮闘。すべては市民の願いを叶えるため

──なぜ、これだけの施策を実現できたのでしょうか?また実現するにあたって、何が大切だったと考えますか?

子育て支援に限らず、施策を実現するために何より大切なのは財政の健全化です。何をするにも、健全財政をどう作るかが一番大切だと私は考えています。

富士フイルムの本社が南足柄市から東京に移ったことなどが重なり、平成の時代に入り南足柄市の財政は厳しいものになりました。

財政の土台がしっかりしないと、市民の願いを叶えることは到底できないのだとこのとき改めて実感しました。

──財政の健全化に向けて、具体的には何を行ったのでしょう?

私自身、1期目では給料を50%カット、2期目では30%カットすることからスタートしました。もちろん、それだけで大きく財政が変わるわけではありません。

しかし、状況を変えるためには先頭に立つものとしてその姿勢を見せることが重要だと考えていました。

──市長みずから、その姿勢を示すことが大切だと考えたのですね。

健全財政は、まちの新たな発展と安定、充実の土台になります。これは、今でも声を大にして伝えていることです。

ただ、口に出して伝えるだけではなく、先頭に立って行動に移すことが市長としての役割なのではないでしょうか。そうすることで、後に続いてくれる方や協力してくれる方が出てきて、少しずつ状況が良いものに変わっていくんです。

結果的に、市長就任時の平成23年度には約309億円あった借入金は、令和6年3月31日時点では約202億円になりました。財政調整基金、いわゆる市の貯金は平成23年度は約7億円だったところ、令和6年3月31日時点では約26億円以上増加し、約33億円になりました。

また、将来世代に残す負担の度合いを示す将来負担比率にも大きな変化がありました。平成23年度には127%だったところ、令和6年3月31日現在ではゼロに。現状では、子どもや孫の世代に負担を残さない財政状況が実現できています。

子どもはもちろん、高齢者にも等しく良い生活を

──市長はなぜ、これほどまでに子育て支援に力を入れるのでしょう?その想いを教えてください。

子どもたちは、まちの、そして日本の未来をこれから作っていく存在です。そんな子どもたちや、子どもを育てる親世代が過ごしやすい場作りをしていくことは、ある意味「未来のまちづくりへの投資」ともいえるのではないでしょうか。

国の地方創生の取り組みが本格的に始まり10年が経過しますが、その確かな姿は見えず、また国全体の人口減少にも歯止めがかからず、地方は人口減少と高齢化が進んでいます。この現状から、今こそ待ったなしで「持続可能なまち」の実現をするための重要施策として「子育て支援と教育の一層の充実」に全力で取り組んでいるのです。

少子高齢化が進んでいる現状で、子どもや子育てをする方たちの環境は変化しています。地域の中で孤立する家庭も増える中、手助けを必要としている家庭が気軽に相談したり頼ったりできる人や場所が必要になってきました。

こうしたことから、南足柄市第五次総合計画後期基本計画では「支援を必要とする子どもと家族を総合的にケアする拠点の整備」と「子育てを応援する拠点づくり」を重点プロジェクトに掲げ、子育て支援の拠点づくりに取り組んできました。

一方、今までこの社会を作り、支えてきてくださった方々のことも忘れてはなりません。昭和の時代から、ときに厳しい状況も乗り越えて今日までこのまちを作ってきてくださった。

その方々は今高齢者になりつつあります。これまで多くのことを残してきていただいたぶん、恩返しのような気持ちで高齢者の福祉・介護サービスもしっかり充実させ続ける必要があります。

これまでの南足柄を紡いでくださった高齢者となる方々、そして未来を作る子どもたち、全ての市民に等しくサービスを提供していくことが大切だと考えています。

まちの個性を磨き、住みたいと思える場所に

──では、市長がこれから目指すまちについてお聞かせください。

これまでの歴史が紡いできた、南足柄市の自然や文化はそのままに、さらにまちの個性と魅力を磨き、発信していければと考えています。また、課題である少子高齢化に対応するために、さらなる施策の拡充も行ってまいります。

──そのために、今後の施策として意識すべき点はありますか?

繰り返しになりますが、将来に向けた新たな発展と希望の南足柄のまちづくりの基盤は、安定・充実の確かな健全財政です。

これをベースに南足柄市は、①魅力的な安定した仕事と働く場がある。②子育て支援と教育が充実している。そして、③便利なまち、を作ってまいります。その上で、「自然が豊かで災害が少ないね!子育てするなら南足柄だよね!」と言われる南足柄を目指してまいります。

※2024年取材時点の情報です

(取材・執筆/momoka 撮影/編集部)

神奈川県南足柄市長
加藤 修平かとう しゅうへい
1949年、 神奈川県南足柄市生まれ。日本大学法学部卒業後、1973年に南足柄市役所に入庁。以後、秘書課長、福祉健康部長、議会事務局長などを歴任。2009年度には南足柄自治会長連絡協議会会長を務める。2011年の南足柄市長選挙に出馬し初当選。南足柄市長に就任。現在4期目。全国市長会評議員、神奈川県市長会常任理事などを務める。
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