美しい四季、文化、そして栗の香り。すべてが調和する町、小布施

長野県内77の市町村の中でも最小面積の町。長野県内の北部にあるコンパクトな小布施町は、栗の名産地としても知られています。老舗の栗菓子店などが並ぶ洗練された修景エリアは統一感あるまち並みで、まちの観光客は年間100万人以上とも言われます。

「魅力あるまちは、地域の一人ひとりのみなさんによる、さまざまな挑戦とご協力のたまものです。観光客向けだけでなく、住んでいる人のためのプロジェクトも、民間主導でどんどん生まれています」と話す大宮透町長は、2013年に小布施町に移住し、2024年12月の小布施町長選挙で初当選しました。

県内の現職市町村長で最年少の大宮透町長に、コンパクトなまちの暮らしやすさ、そして魅力についてお話を伺いました。

自然と共生するのんびりとした暮らし

── 小布施町は、どのようなまちでしょうか?

小布施町は人口が1万1000人ほど。面積は19.12㎢なので、およそ4km×5kmのなかに入ります。

農業は、栗やブドウ、リンゴなどの果樹栽培がメインで、その農産物を活かして、栗菓子やスイーツなどを手がける質の高いお店がたくさんあります。飲食店やカフェも多く、例えば「新しいスイーツが発売されたらしいよ」などの、ちょっとした話題が日常にあふれていて、地域の活気を感じますね。

あとは、葛飾北斎の存在も大きいです。晩年の北斎は、数回にわたり小布施を訪れ、多くの作品を残しました。江戸時代から商業のまちとして栄えてきた歴史があって、北斎をはじめ、多くの文化人との交流があり、そういった交流から新たな価値を生み出してきたまちです。

── 中心エリアは、小布施らしい整った町並みも魅力的です。


小布施町では、石畳や昔ながらの建物を活かした、町並み修景事業が行われてきました。官民がそれぞれの立場から景観を大切にしたまちづくりを積み重ねた結果、小布施ならではの町並み景観が育まれています。

長野市の善光寺のような「ここに行けば何かがある」といったランドマーク的な存在は少ないかもしれません。でも小布施という場所そのものが、「行くと心地いい」「なんとなくほっとする」というような、全体の雰囲気で愛されているんだと思います。

移住体験と、住まいを構えるためのサポート

── 暮らしについて教えてください。


小布施町の暮らしやすさについて一番に挙げられるのは、スーパーや医療機関といった生活に直結するサービスが町内に整っているということです。たとえば「新生病院」という大きな民間の総合病院を中心に、医療機関が7施設あります。これは、人口に対して充実した医療体制と言えると思います。小児科診療施設も複数あって、子育て世帯にも心強く感じられるのではないでしょうか。

買い物に関しても、スーパーのツルヤや、ホームセンターのコメリをはじめとして、日常生活に必要なものが揃う店舗が複数あります。車で数分、場合によっては歩いて行ける距離にこうしたお店があるのは安心感に繋がります。

県庁所在地である長野市にも隣接しているので、買い物や仕事先においても、選択肢を持てます。

── アクセスついても教えてください。


電車は長野駅から直結している長野電鉄が通っていて、小布施駅と都住(つすみ)駅があります。また、上信越自動車道の小布施スマートICが通っていて、アクセスのいい立地です。

その小布施スマートICを降りて、道の駅となるハイウェイオアシスの前には、町民のみなさんの憩いの場となっている小布施町総合公園があります。14.6haにもなる豊かな公園には噴水や芝生広場などがあり、子育て世代から年配層の方まで1日過ごせるような場所になっています。

地域らしいスポーツや体験。学びをサポート


── 小布施町の子育て環境についても、教えてください。

就園前の子どもやご家族の支援施設「エンゼルランドセンター」を設けています。保育士が常駐していて相談ができるほか、体操の時間や絵本の読み聞かせなどの子どもたちが楽しめる行事を企画しています。「まちとしょテラソ」という名の図書館でも、週末には子どもたちのための本にまつわるイベントが開催されています。

また、幼稚園・保育園は公立3園、小学校、中学校は1校ずつあり、幼保小中一貫で「小布施学園コミュニティ・スクール」を運営しています。子どもを中心に据えた園・学校と地域の連携強化を進めて、子どもたちの成長や教育を支える体制を強化しています

その他、民間学習塾と連携し、受験を見据えた英語と数学の学習支援セミナーを開催しています。中学3年生を対象に週2回、月額2,000円で受講することができます

まちとしょテラソ。ガラス張りの開放的なデザインと、自然との調和を意識した建築

── スラックラインやスケートボード、ボルダリングなど、子どもたちが新しいスポーツにもどんどん挑戦していますね。

特にスラックラインは、浄光寺の副住職さんが先導し、2013年に境内にパークがつくられました。今ではワールドカップが小布施で開かれるほどに盛り上がっています。

それに先立って、スノーボードのジャンプ台施設やスケートボード場、ボルダリング場なども整備されてきました

浄光寺境内に広がるスラックラインパーク。誰でも無料で利用できる国内最大級の施設
浄光寺の34代目 副住職を務める林映寿さん。合掌をしながら地上1mほどに張られた幅約5cmのライン上を歩く

── スポーツのほか、体験の機会も充実している印象です。

「子ども教室」では地域の大人やボランティアが協力し、小学校の放課後に子どもたちが学習支援や体験活動を受けられる場をつくっています。例えば、餅つきや、おやきづくり、1年かけて稲作りをおこなうなど、地域の皆さんにも参画いただきながら、プログラムを作っています。

また、サマースクール「HLAB(エイチラボ)OBUSE」も人気の体験機会です。全国から高校生が夏の小布施に集い、国内外の大学生メンターと寝食を共にしながら、多様な価値観に触れる1週間の教育プログラムです。自らの未来を主体的に考える力を育める機会になっています。

町内からは「もっと外の世界が知りたい」というような思いを持つ高校生が参加するプログラムですが、「こんなに小布施っていいところなんだ」と小布施の良さを実感することもあるようです。そして全国、世界から参加者が集まるので、プログラムの多くが英語で進められます。小布施の高校生にとっても一気に世界が広がるわけですよね。小布施にいながらにして人生が変わる1週間の体験となっています。

みんなが主役。うるおいのある、美しいまちづくり

── 住まいについてもお伺いします。景観を大切にするために「小布施景観づくりの指針」がありますね。

移り住んできた方々や、新しく家を建てていただく方々にも、一緒に私達が大切にしてきた景観を、大切にしていただきたい思いがあります。イメージに共感をいただいて移り住んでいだけた部分もあるのかなと感じています。

そのほか、良好な景観づくりのために必要な住宅などの建築や緑化に対して「うるおいのある美しいまちづくり緑化助成金」を用意しています。建築費は助成率10分の10で最大10万円、新たに生け垣を作ったり敷地内を緑化したりする場合は助成率2分の1で最大15万円です

緑地や生垣を作るのはハードルが高い昨今ではありますが、美しいまち並みに繋がっていくという姿勢で取り組んでいます。ぜひ、多くの町民の皆さんに参加していただきながら、町の景観づくりをさらに進めていきたいと考えています。

── そのほか、空き家の利用時の制度について教えてください。

空き店舗等活用事業補助金」では、空き店舗を改修して新たに事業を営む場合に補助が受けられます。改修費に3分の1以内で最大100万円、賃借料は1年間分の3分の1以内で最大月5万円です

一方で、移住希望者のなかで、一軒家の賃貸住宅を希望される方は多くいらっしゃるのですが、一軒家の賃貸住宅は非常に少ない状況です。空き家となる物件が増加傾向にある中で、その活用についてこれから行政としても積極的に取り組んでいきたいと思っています。

町内の人と、町外の人の交流から、協働が生まれる

── 修景事業やニュースポーツなど、まちづくりにおいて民間事業者の活躍がありますね。

小布施の特徴は、なんと言っても民間事業者の活力が盛んなところにあります。新しい取組やアイデアの多くは、民間が主導して生み出されてきました。

民間の皆さんがまちづくりに積極的に関わってくださり、行政が連携することで、まちの魅力が育まれてきた歴史があります。古くからあるものを大切にしながら、生まれる新しいチャレンジが、小布施らしさを形作ってきていると思います。

── 新しい物事が動き出す雰囲気があります。住民の皆さんも、誇りを持って暮らしているように感じられますね。

象徴的な取組が、2012年からスタートした「小布施若者会議」です。小布施町内外の35歳以下の若者が長野県小布施町に集まり、2泊3日のプログラムの中で、まち全体を会議場と見立てて、図書館や畑、ワイナリーなど、さまざまな場所で、地方の未来や自分たちの役割についてディスカッションをしました。町内外の若者たちのアイディアを提案してもらい、地元の方が結びついてアクションが生まれました。

2018年に小布施若者会議は一度幕を下ろしましたが、その後も「小布施バーチャル町民会議」や「ミライ構想カレッジ」として、町内外の人々が関わる新たなプログラムが今でも展開されています。

小布施という小さな町が直面する課題を題材に、自分たちがつくりたい未来を構想するオンラインプログラム会議である小布施バーチャル町民会議。構想したアイディアは、行政や地域企業、テーマの担当者などが一丸となって、実現のために本気で向き合っていく

── これまでに若者会議から生まれたものはありますか?

例えば、先ほどのスラックラインパークは、若者会議の打ち上げがきっかけの一つになっています。当時、若者会議にかかわった運営メンバーが斑尾高原に行ったとき、たまたま1本のスラックラインが張られていて。そこでの経験から「これ面白いね、まちでもパークをつくってみよう」という話が広っていったんです。

そのほか、先程の「HLAB(エイチラボ) OBUSE」という小布施を会場にしたサマースクールも、若者会議の交流をきっかけにしてスタートしました。若者会議に参加した方から後日「コンパクトかつ日本のローカルの良さが残っている小布施では、東京とは違う形でサマースクールができるのではないか」と、ご提案をいただいたことがきっかけです。

── どちらも若者会議のつながりからアクションが生まれたのですね。

これまでの交流において信頼関係が構築されていて、その信頼関係に基づいていろんな協働が生まれてきました。ふらっと小布施に立ち寄った方から「一緒にやりませんか」と言ってもらえる関係性があります。まちの良さを知ってくれている人がたくさんいることが、新たな取組の種になるんだと思っています。

すべての提案を受けられるわけではないのですが、活動と関係のありそうな民間の方をお繋ぎしたり、行政の課題に当てはまって実験的な活動が始まったりすることがあります。「この町でなら、何かできるかもしれない」と期待していただけるまちでありたいと思っています。

「協働と交流のまちづくり」。交流から熱量が生まれる

── 町民の方々の「挑戦しよう」というエネルギーはどのようにして生まれているのでしょうか?

やはり、それも交流からだと思うんです。長らく小布施町はまちづくりのキャッチフレーズに「協働と交流」を掲げてきました。人と出会って話したり、情報を交換したり、交流することが、新しいチャレンジに対する熱量が生まれるきっかけになると考えています。

「今まで通りにやってきたから」と、どうしても変化には抵抗は生まれてしまいがちですが、時代に合わせて変えていかなくてはならないときに必要なのは、やはり人が持つ前向きな熱量です。

ありがたいのは、町内の民間企業の方々も若者会議をはじめとする様々な交流事業に、面白がって参加してくれることです。交流をまち作りの核として大事にしてきたことが、小布施町のアイデンティティでもあると思いますね

── 町長自身も、交流がきっかけで移住した過去がありますね。

わたしが小布施に初めて訪れたのは、日米学生会議という国際交流のイベントです。小布施が2009年の開催地の一つでした。当時「まちの方々が、学生の声に耳を傾けてくれる」ことに感銘を受けました。

そこから小布施との関係は終わらず、2012年の若者会議の実行委員となり、まちの雰囲気と人々にさらに惹かれていき2013年に移住しました。

町長室隣りに設置された法政大学・ 小布施町地域創造研究所(現慶應SDM・小布施町ソーシャルデザインセンター)の研究員時代の大宮さん

施策の3本柱「手厚い子育て支援」「高齢になっても活躍の場を」「活力溢れる農村」

── 2024年12月の小布施町長選挙で初当選されました。施策の3本柱として「子育て家庭」「高齢者」「農業・農村」を掲げていますね。

古くから農業がおこなわれてきた中心市街地以外のエリアは、高齢化や農業の担い手不足、空き家が大きな課題となっています。

これからも小布施らしい農村風景が守られていくことは、まち全体の地力を高めていくことにもつながります。農業という産業や、農村への支援を積極的に進めていきたいと考えています。

── 農業の担い手となる方への支援もおこなわれていますね。

新規就農支援としては、まったく農業に経験がない方でも挑戦できるように、現役の農家さんのところで里親就農できる研修期間を設けています。特に果物は機械化が難しいので、農家さんに教えてもらいながら、生産技術を培っていくことが大切です。

独り立ちに向けても里親さんの支援はとても重要です。特に農地は、人の繋がりから話が出てくることが多いんです。農業を引退される方から引き継ぐ事例もあります。そして独立してからの一定期間は助成金で収入を支えます

── 年を重ねてからの生活については、いかがでしょうか?

非常にコンパクトなまちではあるのですが、ご高齢になって車移動ができなくなったり、ゴミ出しが大変になったりと、日常生活に不安を抱えていらっしゃるご高齢の世帯も増えていくと思います。ご高齢になっても、暮らし続けられるような仕組みづくりを目指しています。

例えば今は松村地区に「ハッピーライフまつぼっくり」という、地域の居場所づくりや地域の支え合いを目指す住民の会があります。会では、生活の困りごとを地区内の住民で助け合う有償ボランティアを行っています。

ボランティア内容は、ゴミ出し、灯油購入の補助など。シニアの方も支える側として活躍をされています。年を重ねた時にも生き生きと暮らすには、地域の中に出番や役割があることが大事だと思っています。

社会福祉協議会や健康福祉課でも、地域の支え合い活動をサポートしてはいるのですが、すべてを行政によるものではなく、地域内で仕組みをつくることで、持続可能な助け合いが可能になります。人とのつながりがまだまだ残っている地域なので、できるだけ小さい単位でも助け合いを続けていくことが、都会にはない価値になっていくのではないかと考えています

── これから目指すまちの将来像について最後にお聞かせください。

必ずしも人を呼ぶために手厚い補助をおこなっていこうとするよりは、まち自体が住んでいて楽しい、そして暮らしやすいまちをつくることを大切にしていきたいと思っています

今後も、そんな楽しい、暮らしやすいまちであり続けるために、信頼・挑戦・共創をキーワードに、新しい挑戦をおこなう姿勢を常に持ち続けたいと思います。皆さんの熱をもとに、一緒に取り組んでいく、民間と行政が連携して進めるまちづくりを、引き続きおこなっていきたいと考えています。

長野県小布施町長
大宮 透おおみや とおる
1988年生まれの群馬県高崎市出身。東京大学大学院で都市工学を学び、2013年に長野県小布施町へ移住。地域づくりや若者の参画促進に尽力し、2020年からは町役場で総務課長などを歴任。2024年12月の町長選で初当選し、2025年1月22日より現職。「信頼」「挑戦」「共創」を掲げ、農業・子育て・高齢者支援を柱に、町民と共に未来を築く町政を推進している。
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