小さくてもキラリと光る!人の優しさが懐かしい、自分らしく暮らせる村へ

長野県最西北端に位置し、新潟県と接する小谷村。雄大な北アルプスを背景に、美しい山間にある農村でありながらも、豪雪を活かしたスキーリゾートの一面を持ちます。村として子育て支援に力を入れ、保育料の引き下げや、通園・通学バスの無料化、英語教育の充実など、「豊かな自然のなかで子育てをしたい」という移住希望者の背中を押す施策も多い自治体です。

今回は、平成31年4月から村長を務め、現在2期目の中村義明村長にインタビュー。子育て世代や移住者に向けた施策のほか、「みんなで見守り合い、助け合う」小谷村民の人柄についても伺いました。

小谷村は、雪や森林など、自然の恵みに囲まれた地域

──小谷村はどんなむらでしょうか?

長野県の最西北端に位置する小谷村は、四季折々の美しい風景が広がる豊かな自然に恵まれています。

「中部山岳国立公園」と「妙高戸隠連山国立公園」という2つの国立公園を有し、面積の88%が森林で占められています。

村の中央を流れる姫川と、新潟県糸魚川市へ抜ける国道148号線で東西に分けると、東側は主に日本の原風景が残る農村地域です。

一方の西側は日本屈指の豪雪を活かして、スキーリゾートが広がる地域となっています。村民の多くは幼少期からスキーに親しんでいて、どこへ行っても遜色のないくらい上手に滑れると思いますよ。

小さな自治体だけど『キラリと光るものがある』、小谷村はスキーリゾート

──隣接する白馬村とともに、世界中からスキーヤーが訪れるスキーリゾートですね。

村の主産業は、雪を活かした観光・スキー産業。多様なスキーコースと上質なパウダースノーが自慢ですね。

江戸時代の湯治場から続く歴史のある温泉もあり、古式ゆかしき温泉宿から近代的な日帰り入浴施設まで、スキー帰りの観光客にも愛されています。

ほかの季節も自然の恵みは健在です。春になると、融雪とともに黄色い福寿草や、名物でもある山菜が顔を出します。それでも残雪を利用して、5月初旬くらいまで春スキーが楽しまれています。夏は冷涼で、爽やかな空気のなかのアウトドアはおすすめです。そして秋は村から見える山の彩りが毎日変化していく風情があります。

そのほか隠れた観光名所といえば、白馬連峰の乗鞍岳から派生した尾根にある「稗田山崩れ(ひえだやまくずれ)」です。明治44年8月8日に起こった大規模な山体崩壊は「日本3大崩れ」のひとつで、浦川の中流に架かる「浦川橋」や国道から見ることができます。

小谷村は2,700人ほどの小さな自治体ですが、『キラリと光るものがある』と、思っています。

生活を支援する交通インフラと、寄り合える『おたりつぐら』

──村民の足となる交通インフラを教えてください。

鉄道網ではJR大糸線が、そして幹線道路の国道148号線を軸に、村営バスも運行しています。そのほかの目的地は、自宅付近から送迎する予約型のデマンドタクシーがカバーしています。

また、村に1つずつある保育園と小学校、中学校に通う子どもたちに向けて、『無料の通園・通学バス』を運行しています。自家用車などを利用して通園する児童の保護者に対しては、費用の一部を補助しています。

村営バスやデマンドタクシーはあるものの、より快適に暮らすにはクルマはあったほうが便利です。冬の降雪時の運転を心配されると思いますが、国道や県道、村道などの公道の除雪はしっかりされていますので、スタッドレスタイヤを履くなどの対策をすれば、クルマの運転に支障はありませんよ。

小谷村の複合施設『おたりつぐら』で新たな地域コミュニティをつくる

──さまざまな世代の方が交流できる複合施設の「おたりつぐら」について教えてください。

『おたりつぐら』は、小谷村を「終の住処」として安心して暮らせるように、地域の見守り・支え合いをコンセプトとした小谷村の複合拠点施設です。

介護サービスをはじめとした福祉、保健医療など総合的な支援をおこなう「地域包括支援センター」ももちろんありますが、『おたりつぐら』では人生の楽しみや、地域のコミュニティ形成ができるような場所になっています。

「つぐら」という北信州の方言には『寄り合う』というようなニュアンスがあります。

多目的スペースをはじめ、公衆浴場やカラオケルーム、コワーキングスペースを整備し、宿泊設備は、大雪や災害等の自主避難や緊急宿泊避難所も兼ねていて、年間延べ1万人ほどの利用があります。

お弁当・お惣菜の定期販売や、ウクレレ教室、スマホ教室など、さまざまな地域の企画もおこなわれているんです。

未来の村を担う子どもたちへ。「子育て施策」や「補助金制度」も

──小谷村の力を入れている施策について教えてください。

多くの自治体が当てはまると思いますが、小谷村でも「人口減少」が大きな課題となっています。人口を増やすというのはなかなか簡単なことではありません。できるだけこの減少を緩やかにしていく施策を考えています。

そのためにも、小谷村のみなさんに「住み続けてもらう」ための施策が必要です。

なかでも、未来を担う子どもたちに向けて小谷村では、子育て支援を充実させています。今年度から、妊娠期から18歳までの子育てを一元的に支援する『小谷村こども家庭センター』を設立しました。

母子保健業務から、一時預かり、子育てに関する手続きや相談まで、一元的に管理します。助産師や看護師、保育士が在籍し、子どもの情報を集約して、年齢のステージ毎に主担当を置き、切れ目のないサポートをしています。

──子育てに対する補助金制度も、充実しているようですね。

出産祝い金は第1子に10万円、第2子に20万円、第3子以降30万円の出産祝金が支給されます。

保育料も引き下げており、第2子は半額、第3子は保育料が無料。さらに 6 時半までの延長保育の保育料も、共働き世帯に限ってとなりますが無料となります。

村から近隣自治体に通う高校生向けに、子育て応援助成金として3年間、月3万円を支給しています。

のびのびと育つ学校教育。ウィンタースポーツや異文化交流も盛んに

──小谷村の学校などの教育環境を教えてください。

小谷小学校は壁がないオープンスペースを活用した校舎。少人数クラスは、先生からの目も行き届きやすい環境です。

栗拾いや、野菜の収穫といった、自然の恵みを得る体験もあります。小谷の子どもたちには自然に触れてのびのびと育ってほしいですね。小学校には児童クラブも併設されています。

小谷中学校では国際感覚豊かな人材の育成を目指し、異文化学習をおこなっています。中学2年生は全額村費で、全生徒が台湾を訪問して現地の中学生と交流を図ります。

また、希望者には姉妹校ニュージーランドへの海外研修もおこなっています。

幼少期からの英語学習で国際人材を育成!

──そのほか力を入れている教育はありますか?

特に幼少期からの英語学習にも力をいれていて、日本人講師と外国人講師が指導を担当しています。

「公営おたり塾」では講師が保育園・小学校・中学校を訪れて、アクティビティを通して楽しく英語にふれあう機会をつくっています。

これからの時代、世界の共通言語である英語を使って、ある程度はコミュニケーションを取れることが求められます。

私自身、前職で1998年の長野オリンピックで外国人観光客の方々への接客をしたのですが、なかなか苦労した経験がありますね。英語習得には幼児期から触れることが重要です。小谷村では英語教育を大切にしたいと思っています。

もちろん、小谷村の雄大な自然環境を活かした教育もあります。

学校の授業でアルペンスキーやクロスカントリースキーに取り組むことで、基本的なスキーの技術は身につくと思います。そこからスキーを練習し続ける子どもたちも多くいます。

小谷村は強い選手を多く排出しています。1992年アルベールビル五輪・日本代表の猪又由美選手、1998年長野パラ五輪の金メダリストの井口深雪選手、2014年のソチ五輪・日本代表の山田優梨菜選手も小谷村で生まれ育ちました。

お試しから移住までサポート。手厚い移住施策や補助金制度

──移住施策について教えてください。

移住サポートについては「集落支援係」で一元的に担当しています。まずは、『移住お試し住宅』に住んでもらって、小谷村を知ってもらうことから始めています。

住むからには「自然なりの厳しさもある」ということを実感いただくことも移住では重要だと思います。

「住みたい」と感じていただいた後は、集落支援係のサポートを通して、空き家や村営住宅などのお住まいをマッチングしていただきます。

空き家バンクは今年も4月から7件ほど成約しました。しかし課題はまだまだ住宅が足りないことです。村営住宅は100戸ほどあるのですが、希望者が多く、すぐに埋まってしまうのです。

「住むところさえあれば、移住したい」という声は本当にたくさんいただいていますが、今後は村営住宅の増設やそれに伴う維持管理なども含めて積極的に検討していこうと考えています。

移住する方へ新築で200万円、リフォームで100万円を補助

──移住に対する『補助金制度』も、充実しているようですね。

移住時の新築時に200万円、そしてリフォーム時は100万円、解体時にも100万円を補助しています。

また「浄化槽等設置補助金」や「家財道具撤去補助金」などがあり、初期投資にしていただけますし、そのほか定住促進事業補助金としての自動車購入費、除雪機購入費など生活必需品の補助金も用意しています。

さらに移住に関して一番ネックとなるのはお仕事だと思います。自分自身で起業やなりわいを起こしていく決意をされた方には200万円を支援しています。

これらの制度は「移住ガイドブック」にわかりやすくまとめましたので、ご参考にしてください。ホームページからもダウンロードできます。

みんなで子どもを見守る、村のつながり

──移住を決めたら、田舎だからこそ生まれる人付き合いもありますよね。

村には、地域の皆さんで助け合う文化があります。その点は自信を持って言えることです。

祭事の準備や地域の清掃作業など「村仕事」という共同作業がありますが、地域に溶け込めるきっかけとなりますので、参加をしてもらうようにしています。

地域で知り合いができると、子どもたちが学校から帰るときに「◯◯ちゃんおかえり」などと声をかけてみんなで見守る様子があり、それが安心の礎になっていると思いますね。

やはり小谷村では、皆で育児を支えていこうという気持ちがあります。移住した後のケアは、地域の方もしっかり協力してくださっていますよ。地域の方がいろいろ世話をしていると、移住した方も返していく、そんなコミュニケーションが生まれています。

新しい移住者の方のなかには、村での人々の距離の近さに戸惑われる方もいらっしゃいますが、暮らしのなかで馴染んでいき、小谷村ならではの良い文化だと言っていただいています。

小谷村の人は何でもできるから、野菜が取れればお裾分けし合うし、草刈り機や雪かき機の使い方も教えてくれるし、大工作業だって「手伝う、手伝う」と言ってやってしまうんです(笑)。

世話がしたくてしたくてしょうがない方ばかりなんです(笑)。小谷村民は、世話焼きでおせっかい。そして、温かいんです。

──子どもたちは、村の方々に見守られながら育っているのですね。

大学生や社会人になると村外に出る方も少なくありませんが、ふるさとのことを「小谷村の人たちは温かい」と口を揃えて言ってくれますね。

帰省すると、どこに行ってもおじいちゃんやおばあちゃんたちが「元気でやってるか」などと声かけてくれる。「お前、こんなデカくなったんだ」なんて迎えて、お酒を酌み交わしたり、お祭りに参加したりして。

「人の優しさが懐かしくて」Uターンする方もたくさんいらっしゃいますね。

自分らしく暮らせる村へ。誇れる村へ。

──今後の施策として意識すべき点はありますか?これから目指すむらについてお聞かせください。

先ほどもお話ししましたが、子育て支援や移住支援を通して、人口減少をできるだけ緩やかな形にしていく施策を中心におこなっていきます。

また、今後は一層、高齢者の方々が住み慣れた地域で、自分らしい生活を継続できるように支援していきたいですね。

最近、集落は54から53に減ってしまったのですが、その集落の最後の1人の方は「集落や家を守るために、最後の1人となっても残り続けたい」という意思を強く持っておられました。小谷の人は我慢強いんです。自分らしい暮らしを尊重できるような支援もとても重要だと思っています。

──これから目指すむらの将来像について最後にお聞かせください。

私の子どもの頃は、小谷村っていうと「白馬の隣の村」と言ったものですよ。

これからの時代は、そうではなくて、自信を持って「故郷は小谷村だ」と言えるように育ってもらいたいですね。そのためには、小谷村をもっと知ってもらえるような取り組みを、おこなっていきたいと考えています。

日本三大崩れの稗田山もあり、スキー場だって3つある。もっと宣伝するためにも、村長の私はいわゆるその広告塔になりたいと思っています。

小谷村を知ってもらい「移り住むならこういうところも、いいかもね」と調べていただき「施策もしっかりしている。」と思っていただきたい。

そして実際に足を運んでいただいて「自然の豊かさや、村の文化、人の暖かさがあって住んでみたい」と、感じていただきたいですね。そのようにして、小谷村の認知が広がっていくようにこれからも努めていきます。

※2024年取材時点の情報です

(取材・執筆・撮影/竹中唯)

長野県北安曇郡小谷村長
中村 義明なかむら よしあき
長野県小谷村生まれ。2008年から5年間、大町郵便局長、2013年から南小谷郵便局長を歴任。2019年の村長選で第8代小谷村長となり現在2期目。
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