リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける石岡市長・リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける衆議院議員・石破茂

年間100万人減の時代が来る。少子高齢化は国家の存亡に関わる大問題

住宅政策や住まいについての自治体の取り組みを取材するインタビュー連載『リーダーズインタビュー』。第4回は特別企画として、これまで自由民主党幹事長や地方創生担当大臣を務め、賃貸住宅対策議員連盟の会長でもある石破茂・衆議院議員に日本の住まい政策の課題、そして急速に進行する人口減少問題と地方活性化などについて詳しく聴いた。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける石岡市長・リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける衆議院議員・石破茂
このような住宅政策は大きな欠陥ではないかと思うのです

日本の住宅政策、最大の問題は「住まい」を価値の低い耐久消費財だと捉えていること

──石破さんは国防と農水のエキスパートというイメージが強いのですが、実は賃貸住宅議員連盟(ちんたい議連)の会長も長年務められています。まず、日本の住宅政策の現状からお聞かせください。

石破茂(以下、石破) 人間が生きていく上で「衣・食・住」は必須のものです。国際的に見て、日本の「食」はトップレベル、「衣」に関してもそう悪くないと思われるのですが、「住」住まいという点においては、改善点が多いと言わざるを得ません。

──どういったところが問題なのでしょう?

石破 一番大きな問題は、賃貸にせよ持ち家にせよ、日本では「住まい」というものを耐久消費財と捉え、恒久財として確立していない。よって20〜30年で資産価値がゼロになってしまうことです。

経済指標に新規住宅着工件数なる項目があるのも、どんどん建て替えよう、そうすると経済も活性化するなどという、発展途上国的な発想がいまだに残っているからだと思います。

先進国の中で住まいを耐久消費財と考えている国は他にありません。住宅ローンを払い終わって老後を迎える頃には、家も老朽化し、資産価値もなくなってしまう。

このような住宅政策は大きな欠陥ではないかと思うのです。

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近年の課題は、マンションの住環境の向上

──国の住宅政策を根本から見直すべきだと?

石破 そもそも、日本の場合、賃貸住宅に対して国や行政は冷たい傾向にあります。

賃貸というのは人生すごろくにおける過程であって、あくまでも最後は家を買って上がりになるという考え方が根強い。

したがって従来の日本の住宅政策は、多くの人がいつかは持ち家に住むという前提で「持ち家」に比重が偏り、賃貸住宅はそんなに支援しなくてもいいよ、とされてきたわけです。

──ちんたい議連としては、これまでどのような課題に取り組まれてきたのでしょう。

石破 たとえば分譲マンションの場合には大規模修繕金の積み立て制度があり、支払った積立金を経費にできるようになっています。ところが、賃貸のマンションやアパートにはそれが認められず、オーナーにとって非常に重荷になっていたんです。

しかしながら、一生賃貸住宅に住み続けるという選択をする人たちや世帯がこれだけ増えてきた以上、マンションの住環境も当然向上させていかなければいけません。

そこで賃貸住宅に住む人やオーナーに対してもっと支援すべきだと、2年前、これまでオーナーが負担してきた賃貸物件の大規模修繕積立金を経費化できる共済制度を実現したわけです。

それによって近年課題となっているマンションやアパートの老朽化問題の解決にも一歩踏み出せたのではないかなと思っています。

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1組の夫婦が2LDKで子供3人を育てていくのは現実的に厳しい

人口減少社会へ向けて子育て世代の住宅政策も転換が必要

──近年、所得格差が拡大する中、とくに若年層は住環境に恵まれていません。賃貸物件はいうに及ばず、頑張ってマンションを購入できたとしても十分な広さを確保できるとはいえず、それが少子化の一つの要因ではないかという意見もあります。

石破 これまで住宅の広さと出生率に関するはっきりしたデータはないと私は記憶してますが、おっしゃるとおり1組の夫婦が2LDKで子供3人を育てていくのは現実的に厳しい。

あるいは非正規労働者が4割で、その非正規労働者の所得が正規労働者の6割というのが現状ですから、高い家賃は払えない、まして持ち家どころではないというのが本当のところでしょう。

──貧困以外にも価値観の多様化もあり、生涯結婚しない非婚者、結婚しても子供を望まない夫婦も増えています。

石破 人口はどんどん減っているのに世帯数は増えています。1人もしくは2人の世帯が増えていて、今後その傾向がますます加速することもわかっている。

ですから、国や自治体はこれまでの持ち家一辺倒の住宅政策からの転換について、民間とも連携を強め、もっと根を詰めて議論しなければならないと私も思っています。

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日本全体でいえば年に50万人も人口が減っていて、もう少し経つと年間100万人減の時代が来る

年間100万人減の時代が来る。国家の存亡に関わる大問題

──一方、地方では過疎化が進み、少子高齢化に加えて空き家が社会問題化しています。それは都市部への人口集中の結果でもあるわけですが、地方創生・国家戦略特別区域担当大臣も務められてきた石破さんは、これまでその問題に対してどのように取り組まれてきたのでしょうか?

石破 私の地元の鳥取県は出生率全国第10位で、他県から移住してくる人の数はなんと全国第1位なんですよ。

しかもその6割は20代と30代。ところが、それにもかかわらず県の人口は1年で約6000人減っています。人口55万人の県で年間6000人というのは大変なことですよ。

日本全体でいえば年に50万人も人口が減っていて、もう少し経つと年間100万人減の時代が来る。今のペースだと2100年には日本人は5200万人になると推計されていて、これは国家の存亡に関わる大問題です。

鳥取の話に戻しますと、若い人もよそから来て子供も生まれているんだけど、それ以上に地元から出ていく人の数が多いためマイナスになってしまうんです。

上から目線の支援策や国の介入によって解決する問題ではない。そこが難しいところです

人口減少は、「上から目線の国の介入」では解決しない

──なぜ人口流出が止まらないのでしょう?

石破 それは若い人たちが大都市圏に住んでしまうからです。私も東京の大学に進学して、東京で就職して、選挙に出るまで地元に戻らなかったので同じですが、若い人たちは主に大学進学と就職で東京、大阪、名古屋といった大都市に出ていき、それきり帰ってこない。

地元の大学に進学してもらうような工夫をするということもひとつですが、むしろ就職のときに故郷に帰ろうかなと考えてもらえる方策を講じるということではないでしょうか。

つまるところ、それぞれの自治体が若者たちに戻りたいと思わせるような魅力ある街づくりをするしか方法はないのです。そういった試みを始めてそろそろ10年になりますが、成功したところもそうでないところもあります。

だからといって、上から目線の支援策や国の介入によって解決する問題ではない。そこが難しいところです。

地方創生大臣の頃、東京に住む40代から50代の人たちに直接聞いたことがあるんですよ。「あなたは一生、東京に住みたいですか」と。

すると「はい」と答えたのは2割か3割くらい。東京は一生住むところではないと思うという回答が7割以上でした。まだシニアになる前のミドル世代には、第2の人生を地方で送りたいと考えてる人がけっこう多かったんです。

しかし、実際には大地方移住ムーブメントが起こっているわけではない。やはり、仕事や医療体制に不安があるというのがいちばんの理由で、その次に、旦那さんが第2の人生を生まれ故郷や縁のある地方で過ごしたいと思っても奥様の方は反対だとか、あるいはせっかく東京に建てた家をどうするかとか、話を伺うといろんな事情が個々にあるわけですね。

実は今、地方に仕事がないかといえばそんなことはなくて、人手不足は全国共通で有効求人倍率は高いんですよ。

そして地域差はありますが、都市部より医療や介護の制度が充実しているケースも少なくありません。東京でキャリアを積んだ40代ぐらいの人たちが地方に帰れば、いろんな可能性もあって活性化にも貢献できます。

コロナ禍でリモートという働き方も多少なりとも定着しましたし、私は今でもミドル世代には前向きに移住を検討してみていただきたいと思ってますよ。

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何に愕然としたかっていうと、みんな幸せそうで日本の高齢者施設とえらい違いだったんです

真の高齢者政策とは、「生きがいを感じられる居場所」を作ること

──先ほど指摘された「おひとりさま」の問題ですが、石破さんは以前、地方創生の柱として“高齢者が自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくりを目指す”という『CCRC構想』を打ち出されていました。

石破 はい。CCRCというのはアメリカ発祥の概念でContinuing Care Retirement Communityの頭文字の略称。和訳すると「生涯活躍のまち」。

私は、実際に中流のアメリカ人たちが老後生活を送るコミュニティの1つを視察したんですが、そこで目の当たりにした光景は忘れられません。何に愕然としたかっていうと、みんな幸せそうで日本の高齢者施設とえらい違いだったんです。

そこで生活している高齢者の方々と話をしても返ってくるのは「毎日が楽しくてたまらない」「ここは天国。死んでももう一度ここに戻って来たい」といった言葉ばかりで、一瞬、ひょっとしてここにいる人たちは施設側が用意した俳優さんではないかと疑ったほどでした(笑)。

ある元司書のおばあさんは週に1回、国立図書館まで出かけて行って本の整理の手伝いをしている。ある音楽家のおばあさんは、全米を回って楽器の演奏を教えている。それまでの経験を活かした生活を送っていて、みんな本当に楽しそうでした。

そういった姿を拝見して、結局、高齢者政策というのは、長く社会に貢献されてきた方々にふさわしい、生きがいを感じられる居場所を選んでいただくことが大事なんだろうなと思いましたね。

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目指すところは、いわば、かつて日本中に当たり前にあったであろう地域の共同体の新生

目指すべきは、かつて日本にあった地域共同体の新生

──CCRCの考え方は何らかの形で実現されたのでしょうか。

石破 私の構想以前から進められていた民間プロジェクトですが、石川県にある社会福祉法人の佛子園(ぶっしえん)が金沢市郊外に開設した『Share(シェア)金沢』は日本型CCRCともいうべき素晴らしいモデルになってくれました。

キーワードは“ごちゃまぜのまち”。福祉施設を山奥に作って社会と隔絶するのではなく、東京ドームのグラウンドの約3倍弱のエリアに高齢者も住民も障害者も大学生も一緒に暮らせるコミュニティを形成しようというのがコンセプトです。

そこには障害児入所施設3棟、サービス付き高齢者向け住宅32戸、学生向け住宅6戸が建っていて、他にも天然温泉、レストラン、ライブハウス、全天候型グラウンド、ドッグランまであって周辺の地域住民にも利用されている。まさに“ごちゃまぜ”。

老若男女が集まり、障害の有無も関係なく、それぞれが必要に応じて世話をし合うことで互いに役割を持っている。ここでは集会や催し物の開催や運営など、 暮らしに関わることは、すべて住民参加で決められていて、つまり、目指すところは、いわば、かつて日本中に当たり前にあったであろう地域の共同体の新生だったんですよ。

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私も、もっと地元に帰って国政報告会をしたり、県会議員や市町村会議員と話す機会を作ったりしたい

少子化を解決できるのは「人と人の繋がり」

──最後に、いま、政治家として石破さんがいちばんやりたいと思ってることをお聞かせください。

石破 去年まで愛知県長久手市の市長を務めていた吉田一平さんと親しくさせて頂いているんですが、彼が「キョウイクとキョウヨウの街づくりをやる」と言っていたんです。

私が「教育と教養? 大学でも作るつもりなの?」と訊いたら「そうじゃなくて、お年寄りが“今日行く”場所と“今日の用”を作る。自分で何かを見いだしていく、その環境作りをやるのが市役所の仕事なんですよ」と答えたんですね。

吉田さんは元々、託児所、幼稚園、ケアハウス、グループホーム、特別養護老人ホーム、看護福祉専門学校等々の開設・運営に自ら携わってきた経験を生かして住民自治を促す政策を打ち出し、もはや高度成長期と違って自治体側の財政にも余裕はないのだから何でも行政にお任せではだめだ、自分たちで何ができるか考えて行動することが重要だ、と訴えて、市民からも支持を得ていたんです。

私も、もっと地元に帰って国政報告会をしたり、県会議員や市町村会議員と話す機会を作ったりしたいと思っています。

というのも、少子化という国の存亡に関わるような大きな問題も、今日、お話した住宅の問題も、高齢者福祉の問題も、一つひとつ紐解いていけばそれぞれの地域の生活に関係しているからです。

そしてそれらのデリケートな諸問題を解決できるのは人と人の繋がりであり、コミュニティの力。

私は国会議員が本来の責務をきちんと果たすためにも、もっと現場の実状を理解している地方に権限を委譲していくべきだと考えています。

※2024年取材時点の情報です

(取材・執筆/木村光一 撮影/本永創太)

衆議院議員・自由民主党賃貸住宅議連会長
石破 茂いしば しげる
1957年生まれ、鳥取県出身。慶應大学法学部卒。三井銀行(現・三井住友銀行)勤務をへて、1986年の衆議院選挙で全国最年少議員として初当選。自民党屈指の政策通として農林水産総括政務次官、防衛総括政務次官などをつとめ、防衛庁長官(第68代・第69代)、防衛大臣(第4代)、農林水産大臣(第48代)、自由民主党政務調査会長(第52代)、自由民主党幹事長(第50代)、地方創生・国家戦略特別区域担当大臣などを歴任。著書に『国防』『国難』『日本列島創生論』『政策至上主義』など。
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