
四季折々の自然と歴史が彩る高原の町・立科
立科町(たてしなまち)は長野県の東部に位置する町。南北に細長い町で、北部の里エリアと南部の高原エリアは、それぞれ異なる一面を持っています。北部の里エリアは商業施設が点在し、新幹線停車駅まで30分圏内。もう一方の南部の高原エリアは、山岳ドライブルートの「ビーナスライン」を中心に観光資源に恵まれます。
今回は、平成31年から町長を務め、現在2期目の両角 正芳町長にインタビュー。注力しているという子育て施策のほか、山と里を活かした仕事について、そして目指す町の姿についても伺いました。

南北の特徴。自然と共生するのんびりとした暮らし
── 立科町は、どのようなまちでしょうか?
東西9.9km、南北26.4kmと南北に長い町で、東は佐久市、北は東御市、西は長和町、南は茅野市に接しています。名前の由来は、観光地で有名な「蓼科山(たてしなやま)」の麓にあることから。しかし当用漢字に「蓼」の字がないことと、蓼科山は古代立科山と呼ばれていたことから「立科村」に。その後の町制施行により「立科町」となりました。
人口は7,000人ほどと町の規模は小さいですけど、自然環境や食文化に恵まれていますね。町の一番細いくびれの部分は幅56mほどで、その南北に分けた北部の里エリアと、観光資源に恵まれた南部の高原エリアでは、大きく異なる特徴を持っています。

── 北部にある里エリアの暮らしについて教えてください。
北部の里エリアでは、役場や商業施設、直売所、ホームセンター、観光客にも人気の御当地スーパー「ツルヤ」などがコンパクトにまとまっています。そのほか保育園・小・中・高校が半径500m内と、子どもの生活圏がまとまっているのも特徴です。
夏は過ごしやすい700m前後の標高のおかげで昼夜の寒暖差が発生し、立科町のおいしい農産物を生み出しています。特にリンゴや高原野菜の栽培、畜産などが盛んです。水道水は100%蓼科山の湧き水となっていて、おいしい水をいつでも飲めます。
── 観光資源に恵まれた高原エリアについて教えてください。
南部の高原エリアは、標高2,531mの蓼科山(たてしなやま)を見上げる一大リゾート地。女神湖・白樺湖・蓼科牧場を有するリゾート地は、観光業が盛んです。
バイカーやドライバーが「一度は運転したい」と話題にする山岳ドライブルートの「ビーナスライン」があり、四季折々の自然の恵みを満喫できます。ルート沿いには別荘地やホテル、個性的な店舗もあってドライブは楽しいですよ。
── 例えば、仕事は里エリア、休日は高原エリアへ。メリハリを感じられる生活ができそうですね。
例えば役場から白樺湖までは車で40分ほど。高原エリアにはさまざまなアクティビティ環境があり、気軽にハイキングやキャンプなどができますね。冬はスキーなどのウィンタースポーツ、夏はその施設を活かしたゴンドラで空のクルージングなども楽しめます。
また、車で1時間あれば軽井沢や長野市、松本市にも行けるので、実はアクセスがいい町なんです。


── さまざまな働き方をされている住民がいらっしゃいますね。
仕事先においては、町内のほか隣接自治体の企業へと通われる方もいます。企業も多く立地する上田市や佐久市は、車でおよそ30分と通勤圏内にもなりますので通勤エリアは広くなります。
また、さまざまな仕事をかけ合わせている「一人多役」で活躍されている方も多くいらっしゃいます。「一人多役」とは、一人で複数の役割を担って、本業や副業、趣味などを多角的に充実させていくライフスタイルです。例えば喫茶店と作家業のかけ合わせや、会計士と農業とコンサルタントのかけ合わせなど、自分らしい働き方を実現されています。
── テレワーク施設も整えていますね。
リゾートテレワークとしてご利用いただけるのは、令和6年に開設した「Lake Office 女神湖」です。「女神湖」の湖畔にある「女神湖センター」内に、個人利用や団体貸切り利用ができるワークスペース、個室ブース、高速Wi-Fiなどを整えています。
標高1,500mで湿気も少ない冷涼な気候ですので、夏でもストレスなく仕事ができます。デッキからレイクビューを望みリラックスできる環境を持ちつつも、自然に囲まれた静かな空間は仕事にも集中できます。非日常ではアイディアも浮かぶのではないでしょうか?

── 住民の雇用を促進する「雇用創出型テレワーク」についても教えてください。
立科町では、2015年から住民の雇用を促進する「雇用創出型テレワーク」と、町外からの事業参画を誘致する「企業進出型テレワーク」を二本柱として、役場から徒歩1分のところに「立科町テレワークセンター」をおいています。
「雇用創出型テレワーク」では、県内外企業のお客さまからいただいたご依頼内容に応じて、ディレクターの統括のもとで専属チームを組んで、アウトソーシング業務に対応しています。
これは、多様なバックグラウンドをもつ住人たちが、ICTを活用して社会参画をはたす「社会福祉型テレワーク」とも言えます。例えば子育てをしているお母さん、あるいは介護をなされている方でも、仕事に従事できるような仕組みがあります。
田舎だから、家のことがあるなどの理由で「仕事がないと諦めないでもいい」「どこにいても誰もが働ける環境」であるべきだと考えています。今後は、ここから起業家が生まれるようなアプローチも探していく予定です。

移住体験と、住まいを構えるためのサポート
── 移住施策について、具体的に教えていただけますか?
移住サポートセンターでは、移住・定住アンバサダーによるサポートがあります。毎月2回のオンライン相談会もあるので、ご自宅からもご相談いただけます。
また、立科町の暮らしを知ることのできる「移住体験住宅」をご利用いただけます。1泊2日から6泊7日まで、無料で利用できる施設です。さらに滞在型市民農園の「クラインガルテン」では、1年間の農業体験や農村生活をすることができます。クラインガルテンは例年11月頃に募集をしています。


── 移住者に向けた支援はありますか?
一定要件を満たす移住者に対し、新築住宅を建てる際に補助金があります。移住者には50万、40歳未満または15歳未満の子どもを扶養している場合に50万円、町内事業所就職者または個人事業主に50万円を交付しています。移住者には最大150万円の交付となります。
また、立科町で新婚生活をスタートする世帯を応援する結婚新生活支援事業補助金では、新規住宅賃貸費用や中古住宅の取得費用、引っ越し費用、リフォーム費用を対象に、一世帯あたり最大30万円を上限に交付しています。
── 新築住宅のハードルを下げる施策も多いですね。
現在、蓼科山と浅間山を望む「西塩沢三葉団地」の住宅地を販売しています。もともと小学校であった土地に区画整備をしました。1区画の平均面積は約330㎡(約100坪)、平均価格は416万円です。家庭菜園も楽しめそうな、ゆとりある広さですのでぜひご確認ください。
そのほか、新築住宅以外の選択肢もあります。子育て支援住宅や、町営住宅、売買・賃貸の戸建て住宅が揃う空き家バンクもご活用ください。

小学校から高校まで見守るカリキュラム
── 子育て支援にも注力されています、施策について教えてください。
町独自の福祉医療費受給者証を交付しています。妊婦さんから高校生まで1医療機関あたり月500円で受診できる医療費給付を実施しています。また、出産祝い金として第一子目は5万円、第二子目は30万円、第三子目以降は50万円を助成。そのほかチャイルドシート購入費用の助成もしていて、車が必要となる町の生活をサポートします。
そして3歳未満のお子さんの保育料は同時入所に関わらず2人目半額で3人目は無料です。使用済み紙おむつは園で処分しますし、副食費の無償化にも取り組んでいます。
── 小中学生、高校生を対象にした支援も教えてください。
まちにひとつずつの小・中学校の給食費の無償化をおこなっています。自校給食なので、つくりたての温かい給食が食べられます。また、入学時には指定の通学用カバンを支給しています。
そして小中高連携学力向上事業では、小学校・中学校・高校の先生方がそれぞれの学校に出向き、小学校から高校まで連続的でなめらかなカリキュラムや、教材開発、授業改善などに取り組んでもらっています。先生方が連携して相互理解を深めることで、課題を共有し、児童生徒の基礎定着や学力向上を図ります。この事業のために、町単独で小中高に一人ずつ加配教員を配置しています。
また、蓼科高校では「地域学」「蓼科学」を実施していて、地域の方々や地域企業とコミュニケーションをはかりながら、体験学習をおこなうことで実践力を養います。
さらに、蓼科高校の合宿所では「ポプラアカデミー」という公設学習塾を開設しています。受験生の過去問演習、定期テスト対策、中学分野の復習など個別のニーズに対応し、塾生一人ひとりの学習をサポート。時間割にある一枠の授業を月額500円で通うことができます。町から出ずとも近場で学習できるということで、生徒さんからは好評です。立科町にある企業からの寄付金で実現しました。


目指すは、町民が融合していくまちづくり
── 町長がこれから目指すまちについてお聞かせください。
進めていきたいのは、若者からお年寄りまでがしっかりと融合していくまち作りです。そのために、今後は町内に子どもからご年輩の方が集えるような複合的施設を作っていきたいと思っています。
また、立科町は里の農業と山の観光業という二大産業を持っていますが、今後の発展に向けた取り組みを考えています。里の農業については、持続可能な農業を進めていくために、若者が農業に従事しやすい環境を整えることが不可欠です。そのためには、すべての農業従事者が対象とはならないまでも、一定の収入が安定して得られる農業経営を確立できるような施策を整えていきます。
一方で、山の観光業についても、新たな視点からの再活性化が求められています。立科町にはスキー場をはじめとする山岳観光資源がありますが、これをより有効に活用するため、別荘地域の土地の活用を進めることが重要だと考えています。
── 最後に、町民や移住を検討されている方へのメッセージをお願いいたします。
キーワードは「人と自然が輝くまち」。立科町の総合戦略です。その実現には、なによりも人材が必要となります。いかにこの町を愛していただき、定住してもらえるかが、まちの未来を左右すると考えています。
また、この地域をしっかりと守り、発展させていくためには、町民の皆さまにも立科町の魅力や課題を十分に理解していただき、ともにまちづくりに参加していただくことが不可欠です。ただ表面的なかっこよさを求めるのではなく、地域に根ざした取り組みを進めることが重要です。そうしなければ、これからの時代を町として生き残ることが難しくなるかもしれません。
そのためにも、町民の皆さまと協力しながら、よりよいまちづくりができるような働きかけを積極的に進めていきたいと考えています。
