住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける足立区・近藤弥生区長

SOSを出せる人ばかりじゃない。下町の『おせっかい』と言われても、そこで救われる人がいる

東京都足立区は、東京23区で人口第4位の69万人。西新井地区や新田地区などの再開発、大学誘致などが進み、人口は右肩上がりで子育て世代からも注目される、いま話題の自治体。「ビューティフル・ウィンドウズ運動」や「地域のエリアデザイン」など独自の施策を展開し、長年『東京の下町・足立』の地域課題に取り組んできた近藤区長にその挑戦について伺った。

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける足立区・近藤弥生区長

“東京都足立区”近藤弥生区長にインタビュー!

──最近は若い世代の注目度が上がるなど、足立区のイメージが大きく変わってきていますね。

ありがたいですよね。イメージ向上についてはいろんな施策を展開してきましたので、一定の成果と評価していただいたとすれば望外の喜びです。

足立区は2010年4月に23区に先駆けて「シティプロモーション課」を立ち上げ、イメージアップに務めてきました。

当初は「観光資源があるわけじゃないのに、何がシティプロモーションなのか」という声もありましたが、足立区としては正当な評価が得られないことで苦慮してきた部分もありましたから。

──エリアでいえば北千住が大きく変わりましたね。

千住に大学を5つ誘致したことは大きな転機になりました。とくに2012年に北千住駅東口に東京電機大学の広大なキャンパスができたことで、大学生だけで約1万6千人の若者が集まるようになり、まち全体が想像以上に大きく変貌してきました。

たとえば、一本路地を入ったところや奥まったところまで、行くたびに新しい店がオープンしているような変化が起きています。

千住は2025年に千住宿開宿400年を迎えます。これをまたひとつのきっかけに、千住を再ブレイク、再々ブレイクさせていこうと地元商工会もずいぶん盛り上がっていますよ。

「大学誘致」は中高校生が将来の夢を考えるきっかけにも

──大学の都心回帰は最近のトレンドですが、東京電機大学の千住キャンパスはずいぶん早かった印象があります。

元々はJT(日本たばこ産業株式会社)とUR(都市再生機構)の土地で、私が区長に就任した2007年にはすでにホテルとマンションを建てる計画が進んでいました。

そこに、学園創立100周年を機に東京電機大学がキャンパスの移転先を探していることを偶然知って、急転直下、実現する運びになりました。

大げさじゃなく、あと1カ月遅かったらマンションになっていたでしょう。

──当時ですと、大学を誘致する発想にはなかなか至らないのでは。

いいえ、私の中では、将来を担う子どもたちの教育ということを考えると大学誘致は必要だと思っていました。

大学生という存在を身近に感じることで、中高生が将来の具体的な夢を考えるきっかけにしてくれればと。

もちろん、そこには経済的な問題もありますが、やはりまず身近にロールモデルの大学生がいないと、自分が頑張って大学に進学して、何かを勝ち得ていこうというモチベーションになかなか繋がらないと思うんですね。

区としても、大学誘致をしただけではなくて、そういうところで学ぶことが当たり前のような環境や、雰囲気づくりを進めていく必要を感じています。

シティプロモーションで「足立区」の新しい魅力を創出

──大きなシティプロモーションになりましたね。

足立区としては、これを克服しないと区内外から正当に評価を得られないという4つの〝ボトルネック的課題〟を掲げています。

ひとつは「治安」の問題。次に「子どもの学力」の問題。3つ目は「健康寿命が短い」という問題。最後に貧困ではなく「貧困が連鎖する」という問題。この4つの問題を突破していこうというのを旗印にしています。

これらの弱点を克服しながら、同時にシティプロモーションで新しい魅力を創出して区内外に発信する、つまり双方向から新しい足立区を作っていくような感覚ですね。

──その4つの課題は、足立区の負のイメージに重なるものですか。

たとえば事実は違っていても、漠然としたイメージだけで語られることがあります。刑法犯認知件数でいえば現在はピークの8割減になっています。

それでも人気TV番組でちょっと面白おかしくいじられると、そのイメージがバッと拡散してしまうんですね。

そこはなかなか辛いところではありますが、実際に減少傾向にあるならばきちっと数字は押さえていこうと。それが大前提だと思っています。

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける足立区・近藤弥生区長

「ビューティフル・ウィンドウズ運動」で区民の意識改革

──ボトルネック的課題はテーマも広いですね。

概観してみると、これらの根幹にあるのは貧困の問題なんです。そこに治安も学力も健康も密接に絡まり合っていて、ではどこから最初に手を付けていくかというと、治安なんですよ。

それは凶悪犯罪が多発しているというわけじゃなくて、たとえば自転車の盗難の内訳をみると、約6割が鍵をかけていませんでした。

つまり、鍵をかけてくれさえすれば刑法犯認知件数は減るんです。

それには区民の意識改革が必要でした。そこで始めたのが、ニューヨークの割れ窓理論を参考とした区独自の、「ビューティフル・ウィンドウズ運動」です。

まずは自転車に鍵をかけてもらうところからスタートしたんです。

──区民の協力意識が高いのはやはり下町だからでしょうか。

あえてマイナスのことをきちっと表に出して、「ここを突破しないと足立区の評価は高まらない、だから力を貸してください」と、はっきりと表明したことに区民の皆さんが共感してくださったんだと思います。

当初は〝刑法犯認知件数ワーストワンからの脱却〟を公言していたこともあって、「区長が一番区のイメージを悪くしている」と責められたこともありましたが、若い方から「自分たちもイメージアップに頑張るので、区としても何とか考えてください」と異口同音に言われ続けています。

ただ実感としては、マイナスをなんとなく抑えていこうとするだけでは、どうしても弱いんですね。

そこに光を照らして、同時にイメージを大きく変えていく魅力の創出も行わなければ。いま、区民の方の意識はガラッと変わっています。問題は、区外の方のイメージなんです。

そこは放っておけばよいという意見もありますが、ただ区長という立場で考えると、資本投下や流入人口の機会損失に関わってくる問題ですから、間違ったイメージは正していく必要があります。

ここは就任17年目にしてもなかなか克服するところまで行かないので、やり続けるしかないと思いますね。

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける足立区・近藤弥生区長

たとえ『おせっかい』と言われても、そこで救われる人がいる

──「おせっかいのまち」という、下町らしいキャッチフレーズも聞こえてきます。

そう言われがちなんですが、これからはそれが命綱になっていくんじゃないかと思うんですよ。高齢者も含めて、皆さんがSOSを出せる人ばかりじゃありませんからね。

ですから、こちらの方からドアを開けて入っていかないと、本当に困った方には手が届きません。たとえおせっかいと言われても、そこで救われる人がいるというのが実感としてあります。

協力団体の方々には、同じ意識を共有して踏み出していただいているというところが非常にありがたいです。

ただ、最近になって一番課題として浮上してきているのは、これはどの自治体も同じだと思うんですが、人手不足が深刻になりつつあるということです。

一番顕著に感じるのは、路線バスが運転手不足で路線の減便・廃止を強いられていること。そこから一番影響を受けるのは高齢者だったり、子どもを抱えてベビーカーで移動しなければならない子育て世帯なんですね。

ですから区としては、赤字補填することで継続をお願いして、了承していただけるところもあったんですが、やはり運転手の確保が難しいと打ち切られたところも実際にありました。

特別養護老人ホームでも同じようになかなか職員が集まらないところが出ています。

高齢者対策として綿密な計画を立てて、十分に進めてきたつもりですが、職員が足りないため、収容可能な100人に満たない80人しか入所できていないところがあります。

先々を考えて進めてきた特養建設も一旦、足踏みを強いられる状況です。

お金を出しても人手不足を解決できないという局面まで、自治体もある種、追い詰められているところもあるんです。これは、足立区だけが特殊ということではないでしょう。

泥臭く、足腰を鍛えて「安心」と「活力」のある足立区を

──最後にこれからの足立区としてのビジョンをお聞かせください。

基本構想として「協創」という言葉を掲げ、個々の力に諸団体や民間企業を巻き込んで、より大きなうねりを創っていこうということを主眼に置いています。

さらに近年のテーマとしては「安心」と「活力」。

生活するうえでも、コロナウイルスや物価高騰などの大きな不安要素がありますから、まず安心をお届けして、いかに地域に活力を生みだしていくかというところがポイントになります。

わかりやすいワードであるだけでなく、区が行っているさまざまな分野の施策は、大まかにいうとこの2つの言葉に収斂されていくように感じています。

とはいえ、「安心」と「活力」だけで説明がつくような単純なものではありませんし、「SDGs」や「ウェルビーイング」「こどもまんなか社会」など、新しい施策にもきちっと取り組んでいかなければなりません。やっぱり泥臭く、足腰を鍛えてしっかりと区政を担っていかないと。

「安心」と「活力」を区民の皆さんにお示ししながら、大勢の方に足立区の魅力が伝えられるよう頑張っていきたいですね。

再開発や「エリアデザイン」で変わる足立区

足立区の人口69万4725人(2024年4月1日現在)は23区中第4位。鉄道網の拡充や、西新井地区や新田地区などの再開発、大学誘致などが進み、人口は右肩上がりが続いている。

足立区の〝表玄関〟となる北千住駅は、JR東日本、東京メトロ、東武鉄道、つくばエクスプレス(TX)の4社5路線が乗り入れるターミナル駅だ。1日の利用者は130万人。これは東京駅や品川駅を大きく上回る。

某大手不動産サイトが選ぶ「穴場な街ランキング」では2015年から 7年連続で1位に選出されている北千住だが、街の様相はもはや穴場と呼ぶには似つかわしくない。

というのも、上昇基調が続く北千住の住宅地平均価格は2024年の公示地価が106万円/平方メートルで、これは目黒区の平均価格とほぼ同じなのだ。

元々、千住宿は日光・奥州街道沿いの街として古くから発展した宿場町で、往時は現在の北千住から南千住(荒川区)まで、約2.6キロメートルに渡って旅館や商家が連なり、その賑わいは江戸四宿(千住宿、中山道の板橋宿、甲州・青梅街道の内藤新宿、東海道の品川宿)の中でも最大といわれる。

往時の賑わいを取り戻したかのようないま、2025年に開宿400年を迎えるにあたって、北千住はさらなる発展に向けて活気に満ちている。

足立区の面積は53.25平方キロメートル。これは23区中第3位の広さだ。区内には荒川や隅田川が流れ、それゆえ北千住のような都市部もあれば、工場地域、住宅地など多様な特色と歴史を持つ個性豊かな地域が広がっている。

千住宿の賑わいは街道の陸運と水運が交差する場所だったがゆえにもたらされたものだった。

足立区が進める施策の中でも注目されるのが、「エリアデザイン」と銘打った地域ごとの個性を際立たせるまちづくりだ。

とかく地域振興策というと、往々にして商業施設や箱もの頼みの安易かつシステマチックな再開発に流れがちだが、足立区ではそういった紋切り型のまちづくりではなく、「各地域が足立の顔として区全体を牽引してもらえるように」(近藤区長)、大局的な見地に立った足立区全体の再設計を行っている。

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける足立区・近藤弥生区長
「エリアデザイン」と銘打った地域ごとの個性を際立たせるまちづくり

大学誘致で様変わりしたモザイクタウン「千住エリア」

たとえば千住エリア。東京電機大学千住キャンパスをはじめ、5つの大学で様変わりしたが、古い町並みは現在も残っており、大型マンションの建設なども含めて、新旧入り混じるモザイクタウンとして再開発が進められている。

空き家になっていた建物を飲食店やシェアスペースにリノベーションするトレンドも生まれた。若者が集う街へを変貌を続ける北千住。人流の大きさを活かした都市的なまちづくりが、足立区の新しい顔を形成していく。

一方、足立区の〝北の玄関口〟である竹の塚エリアでは、2022年に住民の悲願だった〝開かずの踏切〟が高架化事業により解消。

2024年5月には高架下に東武系の商業施設「EQUiA(エキア)竹ノ塚」がオープンし、今後は駅前団地との連携事業も計画されている。

足立区西部にあたる江北エリアでは2022年に、都営住宅跡地に開院した東京女子医科大学附属足立医療センターを核とした、〝健康〟をテーマにしたまちづくりを展開。2025年4月には高齢者の医療と介護を結ぶ「すこやかプラザ あだち」が完成する予定だ。

その他、綾瀬・北綾瀬エリアでは駅前広場を〝顔〟として整備。SDGs未来都市のモデル地域として、新たな魅力を創出していく。

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける足立区・近藤弥生区長

足立区の子育て世帯への支援

2021年4月に、足立区北部で埼玉県と接する花畑に文教大学東京あだちキャンパスがオープンした。千住エリアにある5つの大学と合わせ、足立区は専門分野の異なる6つの大学と1万8千人もの学生が集うまちになった。

大学誘致の次のステップとして足立区が力を入れているのが、地域との連携だ。

一般に開放した区民講座や、産学官連携の研究開発という実働的な部分だけではなく、地域に大学という学習施設を身近に感じることで、子どもたちの夢や目標を促進させ将来に繋げていくという狙いがある。

「夢をかなえよう。with あだちの6大学」が足立区の6大学連携のキャッチフレーズだ。

足立区では教育費負担の一環として、大学などの進学に向けて返済不要の「足立区給付型奨学金」を新設。給付は入学金・授業料・施設整備費の全額で、入学料162万円、授業料及び施設整備費573万円を上限に給付する。

年収要件は800万円以下(4人世帯の目安)と広く設定し、国からの給付金などの支援を受けることができない中間所得層にも配慮したものとなっている。前年度の募集では、40名の定員に対し、206名の応募があったという。

また、家庭の事情などにより塾などに通いたくても通えないが、成績上位で学習意欲も高く、一定の審査を通過した中学3年生に対しては、足立区が委託する民間教育事業者が受講料無料で入試対策を提供する〝足立はばたき塾〟がある。

進路や進学に関する説明会も実施し、難関校合格者を続々と送り出している。

学校給食費においては、多子世帯に限っていた補助を拡大し、足立区内の区立小学校を2023年10月から無償化(区立中学校では同年4月から無償化)。これは、一時的な物価高騰対策ではなく、子育て世帯への負担軽減を図る恒久的な制度と位置付けている。

足立区のマイナスイメージの要因となっているボトルネック的課題(治安、学力、健康、貧困の連鎖)に対する取り組みとして、教育環境の整備と具体的な教育制度の拡充は根本的な部分に当たる。

目指すのは、経済格差を将来格差に繋げない、つまり貧困の連鎖を作らない社会の実現なのだ。

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける足立区・近藤弥生区長

足立区の震災対策を解説!

先述したように、足立区を形づくってきた大きな河川には、水害の懸念もある。近年は起きていないが、リスクがなくなったわけではない。さらに昨今は地震への備えも不可欠になってきた。

令和4年度に10年ぶりに見直された東京都首都直下地震の被害想定がある。それによると、足立区は死者数・全壊棟数・負傷者数が都内ワーストワンの数値となっている。

足立区では大規模な被害が見込まれる木造密集地域に対して、重点的に住宅の耐震改修を進めている。耐震診断には最大30万円を助成し、改修、または解体が必要な場合には最大200万円を助成する。

有事の際に通行の妨げや人的被害が予測されるブロック塀等の撤去に対しては、助成金の上限を撤廃し、さらに助成活用の後押しのためブロック塀撤去後のフェンス新設工事助成も開始した。

深刻な被害が想定される、下町を構成する住宅密集地域については、重点的に防災意識を高めていくとともに、耐震化に対する理解を求めていく方針だ。

2024年1月に発生した能登半島地震以降、足立区では震災対策の見直しを進めている。

その中で新たな問題として浮上してきたのが、緊急物資の受け入れ態勢だ。通常、有事の際には区の備蓄を優先的に開放し、それ以降に都や国の物資を受け入れることになるが、受け入れ拠点が都立公園など、雨ざらしになる場所ばかりだったことがわかった。

足立区では急ぎ、緊急的に物資を保管するエアーテントなどを確保し、避難所への物資の輸送に関しても再検討を始めている。

水害時の備蓄倉庫に関しても保管場所の見直しを行っており、抜本的な高さ対策を進めるとともに、民間倉庫会社のノウハウを取り入れる形で、有事の際の協力体制を新たに構築していく構えだ。

また全国に先駆けて、千住地域で住民も参加して震災を想定した復興シミュレーションを行っている。有事の想定は、新たな災害によって常に更新される。

能登半島の震災でも、災害復興が大きな問題となっているが、このシミュレーションも担当職員の発案で実現したものだという。もしもの時に備えようという官民一体の強い防災意識がうかがえる。

課題をしっかりと掲げ、真正面から改善に取り組みながら、弱点は弱点として、包括的にアプローチしていく。

官民が問題意識を共有して、改善に向けて双方向から取り組んでいく姿勢。足立区の施策が大きな注目を集め、追随する自治体が相次ぐ理由はそんなところにありそうだ。

※2024年取材時点の情報です

(取材・執筆/坂茂樹 撮影/編集部)

東京都足立区長
近藤 弥生こんどう やよい
1959年、東京都足立区生まれ。青山学院大学大学院経済学博士前期課程修了。1983年から警視庁警察官。税理士を経て、1997年に東京都議会議員選挙に立候補し初当選。3期目の途中で辞職し、2007年に足立区長選挙に立候補し、初当選を果たした。現在5期目。
【足立区周辺】
無料一括最大3社
リフォーム見積もりをする