リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける石岡市長・リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける参議院議員・辻元清美

国家予算の配分を「人の生活」へ変えていくことで、日本は再生できる

住宅政策や住まいについての自治体の取り組みを取材するインタビュー連載『リーダーズインタビュー』。第3回は特別企画として、これまで国交副大臣、災害ボランティア担当の総理補佐官を務め、防災対策の専門家でもある辻󠄀元清美・参議院議員に能登半島地震でのあるべき震災対応、そして高齢化社会の住まい政策について詳しく聞いた。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける石岡市長・リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける参議院議員・辻元清美
「日本の避難所は難民キャンプよりひどい」と言われたときのショックは忘れられません

能登半島地震で「住まい」失った被災者をどう支援すべきか

──はじめに、年明けに発生した能登半島地震から2か月あまりが経過しましたが、現時点でもっとも求められている被災者支援はどういうものだとお考えですか。石川県での住宅被害は7万棟以上にのぼるといわれています。生活の基盤となる「住まいの問題」についてもご意見をお聞かせください。

辻󠄀元清美(以下、辻󠄀元) そもそも、日本では「住まい」における課題がずっと二の次にされてきました。そのことの弊害が極端に顕在化するのが、災害が起きた時なんです。

東日本大震災の被災地を訪れた国連の難民担当の方から「日本の避難所は難民キャンプよりひどい」と言われたときのショックは忘れられません。

──当時、辻󠄀元さんは災害ボランティア担当の総理補佐官として現場の最前線で陣頭指揮をとられてました。

辻󠄀元 避難所が体育館でも、せめてパーテーションで区切ったり、冷たい床に寝ないで済むようにダンボールベッドを設置したりと、なんとか最低限の住環境を確保しようと努めたんですが、なかなかうまくいきませんでした。

──それはなぜですか?

辻󠄀元 たとえば、国から送った4万枚のパーテーションがまったく使われている形跡がなかったので調べてみたんです。そしたら「避難所からの要請はない」と言われました。例えば授乳が必要な被災者で、言い出せない方もいることに思いが至っていない。「パーテーションのある避難所とない避難所ができてしまうと行政の公平の原則に反する」という理由で県の倉庫に仕舞い込まれたままだったんですよ。すぐ配らせました。

この国の「住まい」政策に対する考え方を根本から変えるとき

──1995年の阪神大震災以降、大きな災害が起きる度、避難所の不備や仮設住宅建設の遅れなど、毎回、同じような問題が起きていてまるでデジャブを見る思いです。それら過去の災害を教訓とした住環境に関する対策マニュアルのようなものは作られていないのでしょうか?

辻󠄀元 緊急事態が生じた場合、避難所に限定せず、寝起きができる場所を確保するためホテルや旅館を借り上げたり、みなし仮設として賃貸住宅を借りたりと、そういった制度も一つ一つ整備してきたんですが、いまだにうまく機能しておらず忸怩たる思いがあります。

まして家が被害を受けてしまった人たちは、食べ物や支援物資がある程度届くようになっても、このさき住むところもなくなって途方に暮れている。その不安を少しでも取り除いてあげなければいけないのに…。

そもそもアメリカやヨーロッパの国々には、大きな災害に見舞われたときには家の再建などのためにすぐ小切手が送られたりする制度があるのに、日本ではそれが私有財産だからという理由で住まいを失った個人に国からの補償はかつては1円もなかったんですよ。

それで私が1年生議員のとき、阪神淡路大震災の被災者の皆さんと一緒に国会の前に泊まり込みをして訴えて、ようやく「被災者生活再建支援法」という法律が議員立法で作られたんです。

──とはいえ、支援額は上限300万円。とても生活再建に十分な金額とは言えないのでは。

辻󠄀元 おっしゃるとおりです。最近では建築資材の価格も高騰してます。それでせめて、その300万円を600万円に引き上げるべく議論したのですが、政府は家族に障害者や高齢者がいるなどの一定条件を満たした世帯にだけ支給しようと言っている。

そもそも十分とはいえない支援金の額を引き上げましょうと提案しているにもかかわらずです。じゃあ、子育てのために買ったマイホームを失った上にローンを抱えてお先真っ暗な人はどうすればいいんですか。保険に加入されていたとしても、自営業の場合、さらに仕事の再建という大きな問題にも関わってくるわけですから。

やっぱり、いいかげん、国は「住まい」の政策に対する考え方を根本から改めなきゃいけません。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける石岡市長・リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける参議院議員・辻元清美
いいかげん、国は「住まい」の政策に対する考え方を根本から改めなきゃいけません

一刻も早く世界基準の「震災対策」を

──これまで何度も繰り返されてきた仮設住宅の供給の遅れについてはどのようにお考えですか?

辻󠄀元 仮設住宅って建設にとても費用がかかるんですよ。しかも、復興住宅が完成するまでの仮の住まいですから数年で取り壊されてしまう。

本当はそういう無駄も出さず、なおかつ移動や設置が簡単にできるトレーラーハウス、プライバシーも確保されたテント式の避難所、キッチンカー、シャワー、トイレといった絶対必要になる設備をパッケージにして国が常時備蓄しておくべきなんです。

たとえばイタリアの場合、政府から近隣自治体へ「72時間以内に避難所を設置せよ」と指令が下り、それらをただちに供給する制度ができてるんです。

それに対し日本では、被災して混乱状況にある当の自治体が自分たちで避難所の設置と運営をしなければならない。どう考えてもそれは負担が重過ぎるし、合理的だとも思えません。

──それらの移動や設置には膨大な人手も必要になります。そういったマンパワーはどのように確保すればいいのでしょうか?

辻󠄀元 今、申し上げたイタリアの例では、災害時には災害防護庁が指揮権を執って国と自治体をコントロールすることになっています。いわゆる縦割り行政や公平の原則の弊害を避けるためです。

さらに日頃から災害に特化した専門の訓練を受けているNPOやボランティア要員が120万人いて、いざというときに政府と連携して活動できるようになっている。国に登録された団体が、その場の判断で活動できる仕組みになってるわけですよ。

しかも「個人の善意」任せの日本と違って、それらのボランティア活動の参加者には最大7日間の給与と交通費保険費などが国から支給される。そこまできめ細かに制度が作られているんです。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける石岡市長・リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける参議院議員・辻元清美
430億円の予算があれば建造できる。大阪万博の大屋根リングの建築費が350億円。それにオスプレイ4機分をプラスしたくらいの金額です

島国・日本にこそ必要不可欠なのは、『病院避難船』

──災害のときにもっとも困るのは、高齢者や介護が必要な人、障害をお持ちの方といった生活弱者です。ところが、まだ日本には介護ができるような福祉避難所の制度も整ってないそうですね。

辻󠄀元 ちょっと話がそれるかもしれないんですが、東日本大震災の際、客船を宮城県沖に停泊させて避難所として使用したことがあって、今回も七尾港に大型フェリーが派遣されたんですよ。

大きな船なら水も食料も支援物資もたくさん運べますし、フェリーみたいなタイプだったら救援のための車両も積める。被災者のための一時的な休養施設としても使えて、なおかつ船室はすべて個室でプライバシーも守られる。と、そういうわけですから、今、私たちは超党派で、ちょっとした手術等も行える病院機能も有する500人を収容できる避難船を作ろうと動き出したところなんです。

それで政府の試算によれば、430億円の予算があれば建造できるそうなんです。ちなみに大阪万博の例の大屋根リングの建築費が350億円。それにオスプレイ4機分をプラスしたくらいの金額です。

どっちに税金を使えば国民のためになるかは言うまでもないでしょう。実際、アメリカ、中国、ロシアは1000人規模の病院避難船を保有しているんですよ。

──日本は島国ですし、今回の地震のように陸路が完全に寸断された場合に現場に急行してくれる船があればとても心強いです。

辻󠄀元 そうでしょう。地震があったら、高齢者とか介護が必要な人とか、その船が駆けつけて真っ先に助けることができる。

政府は維持費がどうのとかケチくさいことを言ってるんですが、いざというときに出動する消防車だって同じじゃないですか。

つねにスタンバイしていて世界のどこかで災害が起きたときに派遣すれば本当の国際貢献にもなります。そういうことのために税金をかけるんだったら国民も納得するんじゃないでしょうか。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける石岡市長・リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける参議院議員・辻元清美
若者が集まる都市部の家賃は相変わらず高い。安くて機能性の高い賃貸住宅を国策として供給するべき

少子高齢化の解決には“おひとりさま”への住宅支援こそ有効

──辻󠄀元さんは国交副大臣の頃、生活困窮者の住宅セーフティネットの整備などに注力されていました。最近、住宅環境の問題は出生率にも密接に関係しているのではないかといわれています。

辻󠄀元 今、少子化対策としてさかんに子育て世帯への支援が叫ばれてますが、課題解決の糸口は「3人に1人といわれる結婚できないあるいは『結婚しない人』たち」をどう支援し、支えるかにあると私は思ってるんです。

結婚したカップルが子供を持つ確率は高いんです。でも、それにも増して非婚者の単身者が増えている。だから全体の出生率が上がらない。そしてその背景には、収入に対して家賃の占める割合が高過ぎるという問題がある。そのため最低限、結婚や子育てに必要な貯蓄も厳しい。非正規ではなお難しいというのが現状ではないでしょうか。

余談になりますが、私が大学入学のために東京に出てきたとき、最初に住んだ中野の風呂なしアパートの家賃は1万9000円。なんとかバストイレ付きの部屋を借りたかったんですけど、当時でも5万円以上の家賃を払わないと住めませんでした。

世の中では長い間デフレが続きましたが、若者が集まる都市部の家賃は相変わらず高いですよね。でも、私はそれを当たり前だと放っておくのではなく、安くて機能性の高い賃貸住宅を国策として供給するべきだと思っています。

これからは「高齢者の住まい確保の支援」が重要

その一例として、世田谷区長の保坂展人さんは、2008年のリーマンショックの後、「派遣切り」にあって生活に困窮した人たちに対し、廃止が決定していた「雇用促進住宅」(かつて雇用保険事業の一つとして整備された勤労者向け住宅)の活用を政府に提案してそれが実際に採用されたことがあったんです。

そういった政策を長期的に行うことによっておひとりさまが結婚という選択をしやすくなれば、おのずと少子化も解決に繋がる、あるいは今後さらに増えてゆく単身高齢者が生涯住まいに困らないよう支援できるのではないかと考えています。

結婚してもどちらかが先に亡くなれば最後は独り。とくに女性の方が平均寿命が長いですから必然的に女性の単身世帯は増える一方です。

なのに単身高齢者が賃貸住宅への入居を断られるケースが後を断たない。独身で子供もいない私にとって決してそれは他人事ではありません。したがって高齢単身者の住まい確保の支援というのも、おひとりさま政策の重要な柱のひとつであると考えています。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける石岡市長・リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける参議院議員・辻元清美
国家の予算の配分を「人の生活」へ変えていくことで、日本は再生できると思っています

“住まう”“移動する”人の暮らしの根本に「最低限の保障」を

──では最後に、歯止めのかからない少子高齢化による人口減少、地方では空き家問題や都市部との地域格差が拡大していますが、日本の社会はこれからどのようにして社会の縮小に対応していけば良いのでしょうか?

辻󠄀元 国の財政をもっとも圧迫しているのは終末期医療や介護に関する費用です。それらを解決する方法は一つ。高齢者の健康寿命を伸ばし、できるだけ元気でいてもらう。その一つの試みとして、私の地元の大阪府高槻市では街づくりの一環も兼ねて70歳以上の高齢者のバス代を無料にしています。

うちの父親は今年89歳になるんですが、毎日朝からバス乗ってはどこかへ出掛けていきます。おかげで元気(笑)。高齢者の病気や要介護度の進行は、セルフネグレクトや家に閉じ込もっている場合に生じるというケースも少なくありません。

これは「クロスセクター効果」と言って、公共交通に税金を投入しても、高齢者の外出が増えることで健康増進や経済活動も増え、結果として医療費や社会保障費が軽減され、むしろ社会全体としての費用負担は下がるという考え方です。

元気な高齢者はバスに乗って出掛けるだけでなく、商店街で買い物もしてくれます。だから高槻市は高齢者のバス代を全額負担しても黒字財政。シャッター街になってないんですよ。

結局、生活における「住まい」や「移動の自由」は医療と同じくらい大事で、人の暮らしの根本部分を「最低限保障する」ことは、結果的に別の予算を減らせることにもつながります。

最近では増え続ける空き家と借りる側のマッチングなどを行っているNPOもあります。そういう活動によって世代間の交流が促進されてコミュニティの再生が進めば、この先、子育ての経験が豊富な高齢者が待機児童問題の解消や子ども食堂の運営に一役買ってくれるかもしれませんし、その交流から若い人たちの仕事が生まれてくる可能性もあります。

それらを後押しする制度や税制を作るのも私たち政治家の仕事なんです。あともう一つ、国を守るのも人なら、「新しい産業を作るのも人」です。

ならばやはり、OECD諸国でも最低レベルといわれる教育予算をもっともっと増やさないといけません。私はそんなふうに国家の予算の配分を「人の生活」へ変えていくことで、日本は再生できると思っています。

※2024年取材時点の情報です

(取材・執筆/木村光一 撮影/本永創太)

参議院議員・立憲民主党代表代行
辻󠄀元 清美つじもと きよみ
1960年、奈良県生まれ、大阪育ち。早稲田大学教育学部卒業。学生時代にNGOピースボートを創設、世界60カ国と民間外交を進める。1996年、衆議院選挙にて初当選。NPO法を議員立法で成立させ、被災者生活再建支援法、情報公開法、男女共同参画社会基本法、児童買春・ポルノ禁止法などの成立に尽力する。エイボン女性大賞教育賞受賞、ダボス会議「明日の世界のリーダー100人」に選出。衆議院議員(7期)、2009年 国土交通副大臣(運輸・交通・観光・危機管理担当)、2011年 災害ボランティア担当の内閣総理大臣補佐官、2017年 女性初の国対委員長(野党第一党)等を歴任。立憲民主党副代表、衆議院予算委員会野党筆頭理事、国土交通委員、憲法審査会委員、平和安全法制特別委員などを務める。2021年衆議院選挙で落選するも、翌22年の参議院選挙で、比例代表で当選。
【お住まい周辺】
無料一括最大3社
リフォーム見積もりをする