リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都小平市・小林洋子市長

子育てや介護、そして女性活躍「◯◯だから◯◯できないを無くす」街づくり

東京都多摩地区の東側に位置する小平市は、都心からも近い人口約20万人のベッドタウン。緑が多く、地場産の食べ物も豊富で、子育て世代に人気がある自治体だ。
そんな小平市に生まれ育ち、4人のお子さんを育てながら市議会議員を10年務め、2021年に当市初の女性市長となった小林洋子市長に、小平市の抱える課題や今後の展望、小林市長ならではの市政を実現する挑戦について伺った。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都小平市・小林洋子市長

ファミリー層が集まる、緑と地場産食材が魅力のベッドタウン

――はじめに、小平市の特色や魅力について教えてください

小平市は都心から約26キロの位置にある住宅地で、都心へのアクセスが良いのが魅力です。“小平”という名前の通り、市内の地形は平坦で坂がないものですから自転車での移動が非常に便利ですね。

JR中央線沿線から少し北側にある小平市に来ると不動産価格もリーズナブルになるので、多くの子育て世代の方々に選んでいただいている理由もそういうところがあると思います。

そして、緑が豊かなことも小平の大きな魅力です。

市の外周を囲む小平グリーンロードは、玉川上水や野火止用水といった水路と狭山・境緑道を繋いでいる、1周21キロの水と緑が豊富な遊歩道です。ここを散歩したりランニングして楽しむ方もたくさんいらっしゃいますね。

市内には畑が多く、農家さんが320軒ほどあります。野菜を各農家さんが軒先販売したり、スーパーの地場産食材のコーナーで購入できて、いつも旬の味が楽しめます。

フルーツ栽培も盛んで、小平市はブルーベリーの商業栽培発祥の地でもあります。あとは梨ですね。小平梨というブランドもあるんですよ。人気のシャインマスカットも採れます。

小平市では、地元の野菜を食べてもらおうと、学校給食に地場産の農産物を積極的に取り入れています。

小平は田んぼがなくてお米が採れないのに給食で使用する野菜類のうち地場産農産物が30%を超えており、多くの地場産の野菜を使用しています。

「子育て」に「市民プール」まで、市民の様々な声や要望

――市民の皆さんに嬉しい魅力がたくさんありますね。自治体に対してはどのような要望が寄せられますか

市民の方からの要望は本当に多種多様で、複雑化・高度化していると思っています。

例えば、公共交通をもうちょっと充実させてほしいという要望があります。小平市は、コミバス(コミュニティバス)とコミタク(コミュニティタクシー)を走らせているんですが、「コミバスの本数を増やしてほしい」ですとか、コミタクの方は、「土日も走らせてほしい」という声もあります。

子育てに関することだと、この令和6年4月から、市内の小学校1校に自閉症・情緒障がい特別支援学級ができるんです。各学校に作るべきという声もありますが、児童の教育的ニーズや学校施設の状況等を踏まえて新たな学級の開設などを検討していく必要があります。そのあたりも課題です。

また、今はどうしても公共施設の維持が難しい時代です。廃止が発表された施設については、『残してほしい』という声もあります。例えば市民プール。小平市は屋外プールが2つありまして、1つが流れるプールです。

市民の方からとても愛されてるんですけれども、老朽化して流水装置が壊れてしまってもう修理は無理ということなどもあり、2つあるプールを見直して屋内プールを1つ建てましょうということになりました。

『レジャー性の低い屋内プールなんてつまらない』といった声も市民の方から出るわけです。同時に管理コストがたくさん必要になる維持が難しい施設でもあります。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都小平市・イメージ画像

子育て世代の声をリアルタイムで届け、待機児童数ゼロを実現

――小平市の子育て支援についてお伺いします。待機児童数で小平市は苦労なさったとか

小平市は待機児童数が多くて、しばらく東京都内でもワースト1位から3位あたりにいたのですが、保育園等を増やして対応しました。

今、私立の保育園が41園あります。平成23年は8園だったので5倍以上になりました。それでどうにか令和5年4月の待機児童数がゼロになったんです。

待機児童数ゼロになったからと言って、お子さんを入園させたい方が増えると、また待機児童数が出るのでは…とドキドキしている状態ではあります。

ここしばらく、市内に大きなマンションが建つことが多かったんです。

マイホームは、お子さんが小学校に入る前に買う方が多いものですから、何年か後に小学校があふれてしまうという問題もあります。現在、花小金井方面の小学校は、教室が足りなくて校舎を増築している状況です。

小平市の特徴としては、ほぼすべての学童クラブが小学校の敷地内にあります。学校から学童クラブに行く時に交通事故にあわないか…といった心配を親御さんはしなくていいわけです。

入会希望の児童数は増えていますが、弾力的に運用することで、学童クラブの待機児童はゼロなんです。学童クラブって、申し込んだけれども、全員が毎日100パーセント出席するわけではないんですね。

お母さんが働いている月水金だけ学童クラブに入れますとか、夏休みの間だけ入れたいというご家庭もあります。

定員が40人の学童クラブに40人だけを入れると、普段は意外と空きがあったりもするので、弾力的運用という形を取ってできるだけ多めに受け入れることで、待機児童を出さないという方針をとっています。

3人目以降の学校給食費無償化で多子世帯を支援医療費の所得制限の撤廃

――小林市長は子育て支援に特に注力されていますが、それはどうしてですか?

市長になる前は市議会議員を10年間やっていました。

そもそも市議会議員になろうと思ったきっかけが、私自身が4人のこどもを育てていて、いろんな年代のママとお話をしていく中で、それぞれの年代に悩みごとや困りごとがあると感じたんです。

「ここの公園の使い勝手が悪いよね」とか、「この辺は交通の便が悪いよね」とか、ママ同士で話していても、それが愚痴で終わってしまうんですね。

そういった声をきちんと市に届けて、子育てがしやすい街になるようにしたいと思いました。

小平市は女性議員が多くて、私が議員をしていた時も、議員28人のうち11人が女性議員でした。

ですから女性の声が届いてなかったというよりは、子育て世代のリアルタイムの声を市に繋げていけるっていうところが、市民の皆さんからも期待があったんだと思います。

市長公約の中にも入っていた「学校給食無償化の検討」は、3人目以降の学校給食費無償化という形でスタートさせました。お子さんが多くて学校給食費に大変な思いをしている多子世帯に対しての支援もしていきたいという気持ちがありました。

また「義務教育就学児の医療費助成の所得制限」を撤廃します。一定以上の所得がある世帯のお子さんは3割負担でしたが、親の年収に関係なく、通院の上限を一律200円で済むようにしました。

昨年は小学校3年生まで撤廃し、今年やっと中学校3年生までの所得制限の撤廃が実現できます。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都小平市・小林洋子市長

65歳以上の人口は23%。高齢者住宅「シルバーピア」が大人気!

――小平市での高齢化はどのような状況でしょうか。また高齢者福祉施策についても詳しく教えてください

今、市内の65歳以上の人口は23.5パーセント。高齢化率は、都の平均よりは少し低い状況です。市内に25ある高齢クラブでは、誕生日会や輪投げ大会、ゲートボール、カラオケ、コーラスと皆さん元気に活動されていますね。

「高齢者支援」については、住まいの観点だと、「シルバーピア」があります。小平市は、市営住宅がないんです。

都営住宅のシルバーピアは結構あるんですけれども市営住宅がないので、民間のアパートを借り上げて、シルバーピア(民間借り上げ高齢者住宅)として運営しています。

シルバーピアの特徴の1つとして、ワーデン(生活協力員)を置いています。居住する高齢者の方の相談に乗ったり、緊急時の対応や、月に2回程度安否確認を行いますので、高齢者に安心して住んでもらえます。

シルバーピアの家賃は2万円前後、市で借り上げているシルバーピアの戸数は38戸あります。

すごく人気があって、空室が出れば募集をかけるんですけれども、1つの部屋に対して多いときは20人くらいの応募があります。

「ハコモノ行政」でない、高齢者の居場所づくりで地域交流を促進

――先程、市民の方からの要望について伺いましたが、高齢者の方からはどんな要望がありますか?

高齢者の方からは友人や知人等で交流や活動できる「居場所」についての要望があります。地域センターだったり公民館だったり、今ある公共施設を使わせてほしいという声が多く寄せらせています。

高齢者にとって、居場所があることで社会とつながり、知人や友人との交流が図られることで、生活の満足度や健康の維持にもつながることから、居場所は大切だと思っています。

より広くそうした要望に応えていくためにも、高齢者の方たちの居場所の確保については、民間の力を借りることも視野に入れています。

他市でファミリーレストランと提携して「オレンジカフェ」をやったという事例を記事で読みました。それに近い形で、公共施設前提の“箱ありき”ではない、高齢者の居場所を作っていかなければなりません。

市では、高齢者の交流活動の支援として、居場所の運営費の補助や情報提供などを行っており、こうした支援などを通じて、高齢者の方々の地域での交流や活動の充実が図られ、活躍できる仕組みづくりが大切であると思っています。

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希薄になる地域のつながりを「新しいコミュニティ」で再生

――市長が考える街づくりについて、現在の課題と今後を教えてください

先ほど、農家さんが320軒あって畑が多いと申しましたが、実は毎年東京ドーム約1個分の畑が宅地化されて、戸建住宅が建っています。

今の課題としては、小平市は自治会の加入率が35パーセントを下回る程度とかなり低いんです。

新しい住宅が建つのはとても素晴らしいことですが、新しく建った住宅地では、肝心の自治会がないことも多いんです。

既存の自治会への加入率もすごく低くなってしまって、それを補完するためには何かしらの手を打たなければいけない状況にあります。

じゃあ今から自治会加入率を6割7割まで上げられるかというと、それは現実的ではないと思います。

どうしても、『自治会費を払って何をするの?』『自治会の役員が回ってくるのは嫌だ』という話になってしまいます。

ですから、自治会加入率を上げるのではなく、違うコミュニティを作っていく必要があります。

それが、(仮称)地区交流センターが果たす役割だと思っていて、「小学校を核にした新しいコミュニティの醸成」ということをやっていきたいんですね。

(仮称)地区交流センターは多世代の交流やこどもの見守り、高齢者の活躍の場、防災拠点など様々な活動の拠点になると考えています。

「駅周辺の再開発」で地域のウィンウィンの関係を作る

――西武線小川駅前の大規模な再開発が始まりましたが、完成後にはどのような街ができるのでしょうか

小川駅西口地区市街地再開発事業では、新しくできる地上27階建てビルの中に商業施設、公共施設、一般住宅が入ります。駅直結ですから、かなり利便性が高くなるだろうと思っています。98メートルの高層ビルは小平市では初です。

市議会議員時代ですが、再開発は反対だと言う市議さんもいらっしゃいました。

小平にタワーマンションは必要ないという意見もありましたが、小川駅前が抱えている課題を解決するには、駅前を再開発しなければいけなくて、再開発する資金のためには、タワーマンションにするしかないということなんです。

小川駅西口にはロータリーがなく、駅に向かっては狭い1本道。タクシーも、一般の方の車も全然入れません。市の抱える課題としては非常に大きいのです。再開発によって道路や駅前広場の整備ができ、安全性と快適性が確保できます。

また、賑わいをつくり、近くの商店街も一緒に活性化していきましょうというのも再開発の目的のひとつ。敷地内にはイベント広場みたいなものを造る予定ですから、そこでイベントをやってもらいたいと考えています。

再開発に反対だとおっしゃる方には、大きい商業施設ができるとそこにみんな行くから、地域の商店街に人が来ないと言い切る人もいます。

でもそうではなくて、地域の商店街と新しい施設が一緒にイベントをやるとか、再開発によって新しくなる動線を絡めた仕掛けを作るとか、協働することでウィンウィンの関係になれると思うんです。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都小平市・小林洋子市長

生活の「どこで困っているか」を直に市政に反映

――小林市長の政策の柱のひとつ男女共同参画は、どのような形で進めていかれますか

市役所管理職の女性の割合を増やしたい、しかし、そもそも市の職員に女性が少ないんです。まずはそこを変えていかなければいけない。今まで以上に男女問わず働く場所として小平市を選んでもらって、一緒に頑張っていきたいと思っています。

ただ、他市も同じように女性職員を採用したいというニーズはおのずと高まっています。

いい人材を確保するためにも、採用試験のシステムを工夫して、地方からも試験を受けやすくするなど、積極的に取り組みを進めています。

市の幹部が集まる会議体でも、私が市長になったことで男女共同参画の視点や女性の意見が議論の場でもより取り入れられるようになりました。

もうひとつ、「防災」の場面でもこれまでと違い女性の意見が反映されるようになったと思います。

各市立小・中学校等が避難所になっていて、各避難所ごとに組織しているすべての避難所開設準備委員会には女性が入っており、発災後に結成される避難所運営委員会の運営役にも女性が入るよう進めています。

女性の強みは、生活に密着しているところだと思っています。私がコロナ禍の真っ最中で市長に就任して最初にやったのが、「食料支援」でした。

感染リスクから家族全員が外出自粛。「じゃあ、誰がご飯を買いに行くの?」「それなら各世帯にすぐ送りましょう」と早々に食料支援ができました。

自分が今まで女性として生活に密着してきたからこそ、市民の方が生活の「どこで困っているか」を直に市政に反映できたと思っています。

小林市長が目指す小平市の未来「◯◯だから◯◯できない、を無くす」

――今後、どんな市政を目指していくのでしょうか

市役所は業務内容が多岐にわたっていて、いろんな方が相談にやってきます。

子育て世代も、高齢者の方も、障がいのある方も、本当にいろんな方が困りごとを抱えています。その中で、『〇〇だから〇〇できない』ということを無くしていきたいと思っています。

たとえば、『子育て中だから仕事ができない』『介護してるから旅行に行けない』などですね。それは軽微なものから、すごく重いものまでいろいろあると思うんですけれども、できるだけ市民の方が『〇〇だから〇〇できないよね』と課題を感じないような小平市にしていきたいです。

一番は、『女性だから〇〇できない』っていうのを、まず乗り越えなければいけません。

男女共同参画の実現に向けて、市民の方への啓発という点では、まだまだ課題があると思っています。

『男性は仕事、女性は家』といった考えや意識をお持ちの方もたくさんいらっしゃいます。そこを変えていくのは一筋縄ではいかないと感じています。

まずは私たち自身が見本になるためにも、市役所の中から変えて行きたいと思っています。

小平市の子育て支援を紹介

・学校給食費第3子以降の無償化

多子世帯における学校給食費の保護者負担を軽減するため、令和6年1月から、第3子以降の学校給食費を無償化。対象は、同一世帯内で義務教育期間(小・中学校)に属する子が3人以上おり、小平市立学校に通う3人目以降の児童・生徒の保護者。

・義務教育就学児の医療費の所得制限撤廃

 小・中学生の対象児童・生徒が、医療機関で受診したときの医療費の一部を助成。小学校4年生から中学校3年生まで所得制限がありましたが、令和6年10月から所得制限が撤廃。

・保育園数の拡充等で令和5年4月に保育所の待機児童数ゼロを実現

 小平市では2020(令和2)年9月に「待機児童解消に向けた緊急対策」を策定し、私立認可保育園の整備や定期利用保育事業の拡充を図り待機児童対策を推進。その結果、2023(令和5)年4月に待機児童数が0人に。

※2024年取材時点の情報です

(取材・執筆/牛島フミロウ 撮影/高木航平)

東京都小平市長
小林 洋子こばやし ようこ
1973年、東京都小平市生まれ。生家は農家。小平市立小平第九小学校、小平市立小平第三中学校、東京都立小金井北高等学校、トラベルジャーナル旅行専門学校(米留コース)を卒業。TBSラジオ954情報キャスターを経て、みどり幼稚園母の会会長、小平九小PTA会長など歴任。2011年に小平市議会議員初当選、以来3期を務める。2021年に小平市長選挙に立候補し、小平市初の女性市長として初当選。
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