加トちゃんには死ぬまでコメディアンでいて欲しい
自宅のこだわりやライフスタイルなど住まいをテーマにお話を聴く『ハピすむ特別インタビュー』。第1回のゲストは、ザ・ドリフターズの加藤茶さんと奥様でタレントとしても活躍される加藤綾菜さん。
インタビュー後編では、茶さん自身の近年の心境の変化やドリフターズ・志村けんさんとの思い出の品について、奥様の綾菜さんの理想のマイホーム計画などお話しを伺いました。
さらに、加藤茶さんの人生を変えた16歳での笑いとの出会い、テレビでの若手芸人への率直な思いや弟子を取らない理由についてなど「コメディアン・加藤茶のお笑い論」についても語っていただきました。
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【インタビュー前編はこちら】 「加トちゃんが暮らすバリアフリーの自宅マンションとは?」ドリフ加藤茶・綾菜夫妻
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僕は、いまの家を売るつもりはないな。それほど気に入ってるんですよ
──戸建てのご自宅を手放し、現在のお住まいに引っ越された経緯を教えてください。リフォームはお考えにはならなかったんですか。
加藤茶(以下、茶) せっかくの一戸建てだったのでリフォームも考えたんですが、ちょっと広すぎてね。人気のあるエリアだったし、知り合いの不動産屋がどうしてもって頼むもんだから手放しましたね。
加藤綾菜(以下、綾菜) 結局その家は取り壊されちゃって、跡地に一戸建てが2棟、なかなかのお値段で売りに出されてましたよ。不動産の噂はなぜか出回るみたいで、『お使いになっていない物件だったら売っていただけませんか』、というお話が結構来るんです。今のマンションでも、そういった問い合わせがあります。もしかしたら売り時だからなのかもしれませんが、2人とも相場に詳しいわけでもないので。
茶 今の家は僕は売るつもりはないな。それほど気に入ってるんですよ。
終活ではなく、単にシンプルな暮らしが心地いい
綾菜 一カ所だけ気になる点を挙げるとすると、トイレを一つだけしか作らなかったのは失敗だったかなと。食生活も同じだから、トイレを使うタイミングも同じなんですよね。そこだけ改善できれば本当に最高って言えると思います。
今のマンションに住む前は、近くにあった広めのマンションに住んでました。その他に戸建てとマンションもいくつか所有していたんですが、2人で一緒に過ごしてみると、どんどん暮らしがシンプルになっていくような気がします。
すごく広くて部屋が沢山あっても使えないし、家具にもこだわっていろいろ置いてみたりもしたんですけど、これは終活ということではなくて、できるだけ何もないような暮らしが心地よくなってくるものなんですね。
断捨離で捨てられなかった、志村けんさんとの大切な思い出の品
茶 結局、邪魔になってくるんですよ。いろいろ家具を置いたりしてみても使わなくなっちゃうもんですからね。
それまで都内に持っていた不動産を整理して住み替えたのが今の家なんですよ。ただ僕は衣装がすごく多くてね。今の家にも僕の部屋はありますが、衣装の収納スペースが大きいんですよ。
綾に言われて断捨離して三分の一ほどに減らしましたが、1000着以上は処分したんじゃないかなあ。断捨離といっても、とても整理しきれなくて、実はやむなく近所にトランクルームを借りてるんですけどね(笑)。
綾菜 断捨離は何年かおきにやってるんです。私はどっちかというと洋服とかあまり興味がない方なんですけど、チータンはいつもきれいにしていたいというポリシーがあるので。だから新しい服がどんどん増えてしまって。だから今も洋服の収納はスペースは場所を取りますね。
ただ、捨てずにずっと保管してた大事なものもあるんですよ。私としては絶対捨てたくないものも沢山あるんです。
『8時だョ!全員集合』の台本や『加トちゃんケンちゃん』のグッズ
たとえば『8時だョ!全員集合』の台本とか、『ヤンマーファミリーアワー 飛べ!孫悟空』(77~79年/TBS系列)の指人形とか、志村けんさんと一緒だった『加トちゃんケンちゃん』のグッズとか。どれも私にとって特別なものばかりなんです。たぶん、皆さんが見たらビックリするような〝お宝〟もあると思いますよ。
一緒に断捨離を進めてた時に、突然、業者の方が引き取りに来たこともありました。当時のマネージャーの方があまり考えずに、チータンに言われたとおりに全部処分することにしちゃったんです。もしやと思って中身を調べてみたら、貴重なグッズが次から次へと出てきて青くなりました。
急な出来事だったので、その場で実家の母に電話して、ひとまず荷物をそのまま福山市の実家まで運んでもらうことにしました。そのまま向こうでトランクルームを借りて、今はそこが〝カトちゃんグッズ〟の倉庫になっています。私の実家も総出で頑張って保管してるんですよ(笑)。
2006年の大動脈解離を機にライフスタイルが変わった
──家ではいつもどう過ごされていますか。
茶 リビングで犬と一緒にTVをずっとみてますよ。マージャン番組やゴルフ番組が多いですよね。ゴルフは趣味にしてたけど、もうやめちゃったね。健康のためには適度に続けてた方がよかったみたいなんだけど、2006年に大動脈解離になって、10時間ぐらいかかる大手術を受けまして、それで完治はしたんですが、心臓のことだから怖くなっちゃったんですよ。
胸を触ると人工血管を入れたところが分かるから、それが飛び出てくるんじゃないかって不安になってね。それでゴルフやらなくても死ぬことはねえやって、それっきり止めちゃったんですよ。それでマージャンも一緒にやらなくなっちゃった。
車も好きだったんだけど、70歳の時に免許の更新に行ったときに認知症のテストとかいろいろやらされたんです。ちょっと失礼だろと思ったこともあって、それで75歳になる時に返納しちゃったんですよ。
だからやっぱりリビングで犬と一緒にいるのが一番落ち着きます。ホントにうちの犬は可愛くってね。
加トちゃんが生きてるうちに「理想の住まい」を買ってあげたい
──もし今後、住み替えやご自宅のリフォームをするならどんなお住まいにしたいですか。
綾菜 もう少し広い家に引っ越すという案も一時あったんですが、お隣の奥さんとめちゃくちゃ仲良くなってしまって、ご近所にも友達が沢山できたので、取り止めになりました。やっぱり住んでみないとわからない良さってありますよね。
でも実は今、もう少し貯金が貯まったら今の家と目と鼻の先のマンションを買いたいと思ってるんです。
そこも犬と一緒に暮らせるマンションなんですが、部屋が大きめで今の家の2倍ぐらいの広さがあるんですよ。いいなあと思ってたら即完売になっちゃって。
敷地も広いので、チータンが外に出なくてもウォーキングができる大きな中庭もあるんです。犬も喜ぶと思うんですよね。
それに、ドラムセットを置いておける部屋や、マージャン部屋をリノベーションして作ってあげたいんです。
茶 俺はもう、なくても構わないんだけどな(笑)。
100歳になっても快適に過ごせる家
綾菜 せっかくいろんな人が来てくれてるんだから、そういう部屋があった方がいいですよね。
私も友達の鈴木奈々ちゃんと2人でお茶できるテラスなんかがあるといいなあとか、いろいろ想像してたら、夢がどんどん広がってしまって。それを母に話したら、あなたが働きなさいって。
『カトちゃんが生きてるうちに頑張って働いて、そして家を買ってあげればいいじゃない』
そう言われて、確かにそのとおりだと。だから今はそれを目標に頑張ってます。
チータンは『108歳の茶寿まで元気に生きたい』って言ってますけど、100歳にもなったら寝たきりになる可能性もありますよね。そういう時のためにも、大きな介護ベッドが置けて、たとえ家の中から出られなくなっても、それがベッドの上だけの生活になったとしても快適に過ごせるような環境が作れるんじゃないかと。大きな庭があるので部屋の中から緑もよく見えると思うんです。
95歳まで舞台に立って、袖に引っ込んで死ねたら最高
──まだまだご活躍を期待しているファンは多いと思います。加藤さんはこれからのお仕事や生き方をどう思い描いていますか。
茶 自分が動けるうちは仕事をやり続けたいですよね。最近は若い芸人やファンの芸能人の皆さんがドリフターズのコントに挑戦する番組(「ドリフに大挑戦スペシャル」(フジテレビ系列))があってね。ありがたいことで、僕も監修者として番組構成に携わっていますが、僕自身も必ずコントに出るようにしています。
若手は頑張ってくれてるんだけど、ちょっと違うなと思うところもあってね。
「お笑いってすげえなあ」16歳で出会った銀幕の中のお笑い
僕の場合、16歳の頃に地元福島で新聞配達しながら映画館で映写技師のアルバイトをしてたんです。とにかく金になるからって聞いたんでね。
そのうち高校も行かなくなってアルバイトに明け暮れるようになるんだけれど、その時にお笑いのフィルムを随分見たんですよ。「チャップリン」や「ジェリー・ルイス」「バスター・キートン」や「ダニー・ケイ」とか。一緒にやってる先輩がぐうたらで、バイトすっ飛ばすことも多くてね。おかげで技術も覚えたし、喜劇にもじっくり触れることができたんですよ。
その時はコメディアンになろうなんて考えもしなかったんですが、見てると劇場のお客さんは大ウケなんですよ。
もちろん英語だから、日本語の文字は出るんだけど場面が切り替わるからワンテンポ遅れるじゃないですか。それでもピッタリのタイミングで大笑いしてるんで、その様子に『お笑いってすげえなあ』と思ってましたね。
当時はまさか自分が喜劇をやるなんて思いもしませんでしたが、後になってネタを考える時にあんなこともできる、こんなこともできると、その時のイメージがずいぶん役に立った気がしますね。
次の世代の芸人たちにドリフで培った「笑いの間」を伝えたい
笑いは〝間〟なんです。だけどその間を教えるのは難しいんですよ。僕は今まで弟子を取らなかったのもそれが理由です。
間はその人の感覚のものだから、口で言ってもわかんないし、こうなんだよって実際にやって見せても簡単に伝わらないんです。その人その人の持っている間を、違うからと表立って指摘するというのもちょっと違うんですよ。
落語と同じですよね。師匠が演じるのをジッと聞いて、弟子はそれを真似することで学んでいくんですよ。そして一人前になった時に、もらったネタに自分の感覚を〝ちょこっと〟入れ込んでいきます。それが良いか悪いかで師匠に認めてもらえるんですよね。
落語家は口伝えで学んでいけるんだけれども、コントの場合はさらに動きがあるからね。やっぱり細かい部分まで伝えきれないんです。
慣れてる人だったら『俺ならこうやるな』と思っちゃう人もいるだろうし、それをひっくるめて『いや違うんだよ』って否定しちゃうと絶対ついてこれなくなっちゃう人が出ちゃうから。でもその間をなんとか伝えたいと思います。だから、やることは多いですよ。
『加藤茶』には死ぬまでコメディアンでいて欲しい
茶 僕自身としては95歳まで舞台でコントをやりたいですね。95歳で舞台に立って、お客さんにドーンと笑ってもらって、袖に引っ込んで死ねたら最高だね。
綾菜 私もチータンには死ぬまでコメディアンでいて欲しいと思ってますし、それが本人の夢でもあるから、そのためにしっかりサポートしていきます。
よし、最近ウォーキングサボりがちだから、この後駐車場まで歩こう。
茶 いや、ちゃんと歩いてるんだけどな(笑)。
(取材・執筆/坂茂樹 撮影/荒木優一郎)
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全員集合の舞台裏、ブレイク前夜、運命の出会い、新しい家族…。ザ・ドリフターズのメンバーとしてはもちろん、志村けんさんとのコンビ『カトちゃんケンちゃん』として親しまれ20代から国民的コメディアンとして第一線で活躍してきた加藤茶さんが激動の80年とこれからを綴った、計144Pに及ぶ人生初のフォトエッセイ。妻・綾菜さんとの対談も収録。