住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける歌舞伎俳優・坂東玉三郎

究極的には気遣いゼロでいられる 自由に満ちているのが、わたしの住まい

伝統芸能の垣根を超えて活躍の場を広げる坂東玉三郎さん。世界の芸術家にも影響を与えた比類なきカリスマのライフスタイルは意外にもシンプル。

インタビュー後編は、玉三郎さんの求める美意識を育む暮らし、心の拠り所となる住まいについて語っていただいた。

【インタビュー前編はこちら】坂東玉三郎「自宅では気を遣わないで過ごせるよう心がけてます」人間国宝が語る「理想の住まい」とは

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける歌舞伎俳優・坂東玉三郎
近年、タワーマンションからお引っ越しをしたという坂東玉三郎さん

自宅のこだわりは「広い窓」と「高い天井」。何もないすっきりした住まいがいい

──玉三郎さんは連日の舞台の緊張からご自身を解放するスイッチのようなものをお持ちなんでしょうか?

坂東玉三郎(以下、玉三郎) これというスイッチはありません。でも、自宅にはリラックスできる空間があらかじめ作ってあって、帰ったらもうすぐに癒されてます。

──癒される空間の条件がほぼ決まっていると?

玉三郎 そうですね。だから、私の自宅と宿泊先のホテルの部屋はそっくりだとスタッフによく言われます。どこに行っても同じような空間を作ってるんですよ。

一昨年、前に住んでいたマンションから引っ越したんですけど、たしかに片面が全部窓になっているところとか、何もないすっきりした感じは変わってないですね。

──窓の大きな家がお好きなんですか。

玉三郎 好きです。いまは、プライバシーも守られるし見晴らしもいいんです。ちょうどいい感じかなと思ってます。

実は、いまの部屋に引っ越す前、タワーマンションの45階に仮住まいしてたんですけど、自宅に出入りするだけなのにいちいちエレベーターで上階まで行かなくちゃいけないでしょう。私にはあの生活は大変でした。

──高層階からの眺めは格別だったのではないですか?

玉三郎 見渡す限りビルが隙間なく建ち並んでいて、ずっと煌々と明かりが点いているんです。そして、自分のいる建物と同じようにそのビルのすべてがエレベーターを動かし続けている。

それに高速道路はひっきりなしに自動車が走ってるし、その下には新幹線も通っていて、すぐ上空を飛行機が飛んでる。上から見ると海の上もボートが波を立てて忙しく行き来してるんですよ。

なるほど、これじゃあ地球が駄目になるのも無理はないと、なんかもう、自分も環境破壊に加担してるみたいな気持ちになって滅入ってしまって。45階に住んでみて、初めてそういうことを実感しましたね。

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける歌舞伎俳優・坂東玉三郎
「何もないという空間が好き」と住まいのこだわりについて語る歌舞伎俳優の坂東玉三郎さん

空間が広いといいアイディアが浮かんでくる

──玉三郎さんが「これだけは譲れない」という住まいについてのこだわりをお聞かせください。

玉三郎 天井が低いのはつらいですね。スペースが狭くても天井が高いと気持ちが落ち着くんです。

だから物事を考えるとき、私はよく劇場の客席に座って考えるんですよ。空間が広いといいアイディアが浮かんでくるんです。

──さきほど1年前に現在のマンションに引越しされたとおっしゃっていましたが、新居を選んだ決め手はどういう点だったのでしょうか?

玉三郎 私たちの仕事はスタッフにすぐ来てもらわないとはじまらない仕事ですから、どうしても利便性が優先になります。

なので、もうちょっと閑静な場所がいいとは思ったんですけど、結局、都会の真ん中になってしまいましたね。

──新しい家に馴染むまでにどれくらい時間がかかりましたか?

玉三郎 半年以上かかりましたね。どこに何がしまってあるのかがわからないうちは落ち着かなくて。犬みたいなものですね(笑)。でもいまのマンションに引っ越して前より気分が明るくなりましたね。やっぱり窓がより大きくなったからかな。

──照明にもかなりこだわりがあると伺っています。

玉三郎 いまの世の中、全部LEDになってしまったのでもはや抵抗できないんですけど、本当いえばランプ(白熱電球)か太陽の光が好きですね。マンションの明かりも可能な限りランプにしてます。

省エネっていうけど消せばいいだけですから。だからあまり点けませんし、必要なときだけ必要な場所を灯すようにしてる。こだわりというより感覚ですね。

──家具はあまり置かないとおっしゃってましたが、インテリアはどういうデザインがお好きですか?

玉三郎 北欧か、イタリアが好みです。北欧は雪に閉ざされている期間が長くて外にあまり出られない国だからか、品質はもちろんデザインも飽きがこないんですよ。

お気に入りはイタリアのポルトロメックっていうメーカーの革のソファ。普段、ソファが自分の体を包みこんでくれる感覚とかあまり意識しないでしょう? 

でもね、やっぱり椅子の文化を知り尽くした国のものは座り心地が格別なんです。ちゃんと無理なく体を支えてくれて、ずっと座っていても疲れないので30年以上修理しながら使い続けてます。

あとはカーテンですね。素材は絹かコットン。部屋を満たす光と気が違うんですよ。

──ご自宅のカーテンの素材はすべて絹なんですか?

玉三郎 窓に関してはそうです。あとはこだわりって言ったら何でしょう、やっぱりテーブルの前が広場だっていうことかな。リビングのレイアウトはL字型の椅子が基準。その前に大きなテーブルは置かないようにしてます。

──開放感のある空間が好みなんですね。

玉三郎 広々してる方が気持ちいいですね。仕事で豪華なホテルの部屋を用意していただくことがあるんですけど、歩く場所がないくらい家具や調度品が置いてある時があるでしょう?

申し訳ないんですけどホテルの方にお願いして少し外に出してもらうんです。そういうお客さん、意外と多いそうですよ。

私は基本的に座り心地のいいソファーと飲み物が置けるくらいのテーブル。あとは何もないという空間が好きですね。

住まいのリフォームサイト「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける歌舞伎俳優・坂東玉三郎
「自分が見てみたい夢の空間を作ってお客様とそれを共有したいんです」と話す玉三郎さん

10年くらい前から断捨離。生き方も住んでいる家もシンプルがいい

──現在のご自宅に関して、可能ならこうリフォーム・リノベーションしたいという希望はありますか?

玉三郎 本当はもうちょっと広いといいかな。面積としては十分事足りてはいますけど、なにしろモノが多くて。

──それは衣装ですか?

玉三郎 衣装部屋はまた別に借りてます。それでも収納スペースが足りないんですよ。10年くらい前から断捨離を始めてずいぶん物は捨てたんですけどね。

亡くなった母の荷物の整理をしながら思ったんです。これは自分にもしものことがあったときにみんなが困るだろうなと。それで、いまのうちに自分で捨てておこうと決めたんです。

──玉三郎さんはどういう基準で断捨離を?

玉三郎 道端にそれが転がってるのを見たとして、欲しいと思うもの以外は残さないって決めました(笑)。

──断捨離にはライフスタイルの変化みたいなものも関係しているんでしょうか?

玉三郎 すべてにおいてシンプルになってきました。いまはまだ仕事がありますけど、自ずと生活全体のサイズも変化していくと思います。

親しい人は、わたしのことを決まって「すごく実質的な人間」だって

──玉三郎さんは「我が家」という言葉を聞いてどんなイメージを思い浮かべますか?

玉三郎 自分の欲しいものがすべてある。という感じかな。

例えば、使いやすいタオルがあるとか飲みやすいカップがあるとか、すべてというのは何もかもという贅沢な意味じゃなくてね。自分にとって心地いいものが過不足なく揃っている、そういう自由に満ちているのが一番の我が家だと思いますね。究極的には気遣いゼロでいられる場所かな。

だからしばらくホテルで過ごすときも、ほとんど引越しみたいな荷物になってしまうんです(笑)。一度も着ない洋服も持って行かなければいけないし。

今日のインタビューもそうだけど、きちんと着替えなきゃいけないときもあるでしょう。だからお洒落とか関係なく持って歩いているだけで、本当は着るものにもこだわりはないんですよ。

──普段はどんな格好で過ごされてるんですか? どうしても和装をイメージしてしまうんですが。

玉三郎 洗いざらしの少し大きめのゆったりしたコットンの厚手のトレーナーを着て1年中暮らしてます。

──自宅でのオフの時間はどう過ごされているんですか? YouTubeで陶芸をされている動画も拝見しましたが、いまも続けられてるんでしょうか。

玉三郎 最近は忙しくなって時間がとれてないんですけど、コロナ禍の間に5〜6個くらい作りました。とにかく日常を忘れて集中できる時間が欲しいんです。

きらびやかな生活をしているように思われてるみたいですけど、着るものも住んでいる家もシンプルなんです。

親しい人はみんな、私のことを決まって「すごく実質的な人間」だと言っています(笑)。

現実とは違った世界を作りたい。夢はやっぱり舞台をつくり続けること

──これからやってみたいこと、あるいはこれだけは実現したい夢についてお聞かせください。

玉三郎 舞台作りがしたいですね。これからは演出もしくはプロデュースをしていきたい。

自分が見てみたい夢の空間を作ってお客様とそれを共有したいんです。私は昔から現実があまり好きじゃなくて、だから映画や舞台を観るのが好きだったんですよ。

たまたま演じる側になってしまったけど、いずれにせよ作品を作るのが楽しいんです。

でも、昨今は時間とお金が限られているので、作り手にとっては年々難しい状況になってきてますね。

──そういった夢の空間=フィクションの世界に惹かれるのはなぜなんでしょう?

玉三郎 厳密に言えば現実逃避かもしれないですね。現実にはあり得ないバランスのとれた世界を見るのが好きなんです。

いま、現実があまりにも過酷な状況でしょう? こんなときこそ、そういう非現実の世界って必要だと思うんです。

環境問題なんかを真剣に考えるとどうしても悲観的になりがちだし、だからこそこの現実とは違った世界を作ってみたいんですよね。もしかすると、ある意味、自分の家も逃げ込むための場所かもしれませんね。


取材・執筆/木村光一 撮影/本永創太

人間国宝・歌舞伎俳優
坂東 玉三郎 ばんどう たまさぶろう
1957年12月東横ホール『寺子屋』の小太郎で坂東喜の字を名のり初舞台。1964年6月14代目守田勘弥の養子となり、歌舞伎座『心中刃は氷の朔日』のおたまほかで五代目坂東玉三郎を襲名。泉鏡花の唯美的な世界の舞台化にも意欲的で、代表作の『天守物語』をはじめ数々の優れた舞台を創りあげてきた。若くしてニューヨークのメトロポリタン歌劇場に招聘されて『鷺娘』を踊って絶賛されたのをはじめ、アンジェイ・ワイダやダニエル・シュミット、ヨーヨー・マなど世界の超一流の芸術家たちと多彩なコラボレーションを展開し、国際的に活躍。映画監督としても独自の映像美を創造。2012年9月に、歌舞伎女方として5人目となる重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定、また2013年にはフランス芸術文化章最高章「コマンドゥール」を受章した。 2014年紫綬褒章、2016年日本芸術院賞・恩賜賞、2018年松尾芸能賞・大賞 2019年岩谷時子賞、2019年高松宮殿下記念世界文化賞、2019年文化功労者認定、2019年日本藝術院会員など
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