港区はあらゆる人が共存する多様性(ダイバーシティ)のまち
住宅やリフォームについての支援制度、移住を含めた理想の暮らしについて考え、自治体の取り組みを取材するインタビュー企画『リーダーズインタビュー』。第5回は“日本のビジネスと情報発信の中心地”東京都港区。武井区長に、港区の子育て支援などについて詳しく聞いた。
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人口26万“東京都港区”武井雅昭区長にインタビュー!
──はじめに、港区の特色や魅力について教えてください。港区はどんなまちですか?
港区はとても賑やかで勢いがあって活気のあるまちです。実際、若い区民が多く、高齢化比率も全国平均29%に対して港区は17%。子どもの数も増加傾向にあります。港区では長年、先駆的な子育て支援を積極的に進めています。
また、区の人口約26万6000人のうちの8%にあたる約2万1000人が外国籍。国の数でいうと世界130カ国にも及び、79カ国の大使館(令和6年4月1日現在)が港区に設置されています。外資系企業、インターナショナルスクールなども多く、非常に国際化されているのも特徴です。
──大規模な再開発事業が進められてきたにもかかわらず、港区は都心にありながら非常に緑が多い印象を受けます。
実は緑被率でいうと23区内で3番目。どうしてそれが可能になったかと申しますと、新しいまち作りが行われる度、港区は「そこに人が住んでこそまち。計画には業務一辺倒のまちにならないよう、住宅や生活利便施設を組み入れてください」と開発業者の方々に方針を伝え、同時に厳しい緑化基準も設けてそれを遵守するよう要請してきたからなんですよ。
ビジネスだけじゃない、人の営みの記憶と知恵が支えるまち“港区”
愛宕山から日本のラジオ放送が始まったという歴史もあり、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京といったすべての民放キー局やメディア関連の企業も集中し、まさに港区は情報集積および最先端の発信拠点にもなっています。
一方、あまり知られていませんが、芝公園の一角には縄文時代の貝塚や、4世紀後半から5世紀前半に作られたといわれる都内最大級の芝丸山古墳があります。実にその頃から、この地では人の営みがあったわけですね。
他にも徳川家の菩提寺の増上寺、将軍吉宗が社殿を造営した赤坂氷川神社、赤穂義士の墓所のある泉岳寺などの歴史の舞台や寺社が現存し、最近でも品川駅改良工事の途中で高輪築堤が発見されています。
これは明治5年にわが国初の鉄道開業の際、海上に線路を敷設するために築かれた鉄道構造物で世界的にも重要な近代化遺産です。
このように、港区には時代ごとの人の営みの記憶や知恵が地層のように積み重なっており、それが見えない力となって今日までまちを支えてきてくれたのではないかと私は思っています。
23区でもっとも活発な経済活動を背景に人口は年々増加
──港区は働き、楽しみ、暮らせるまちなんですね。
交通アクセスが非常に良いこともあってビジネス環境面で大変恵まれており、事業所の数は約4万、昼間人口は約97万人に上り、23区でもっとも活発な経済活動が行われています。
余暇を楽しむためのレジャー施設や飲食店も多く、美術館や博物館や劇場や文化芸術関係のホールなど、暮らしを豊かにする環境にもたいへん恵まれています。
そういった港区ならではの魅力が広く浸透し、人口も年々増加傾向にあり、近い将来、30万人になるだろうという予測を立てております。
もともと、港区の合計特殊出生率は平成16年当時では0.78と大変低い状況で、強い危機感をもって就任当初から「子育て支援」を積極的に進めてきました。
平成18年には23区で初めて出産費用の助成を導入、令和2年には23区で初めて第1子の年齢にかかわらず第2子以降の保育料を無償化しました。翌年の令和3年の出生率は1.27と同年の都全体(1.08)を上回り、大きく改善することができました。
人生設計や家庭の理想像も多様。理想の暮らしの実現を後押し
──良いことづくめの港区ですが、暮らす上でいちばんの困り事はなんでしょう?
「子育てに十分な住まいの広さを求めようとすると、経済的な負担が大きい」ということがあげられます。
以前、区が「理想とする子どもの数は何人ですか」と区民アンケートを実施したところ、既婚者では2.26 人という結果が出ました。
同じ調査結果の全国平均が 2.25 人ですからほぼ同じ数字です。
ところが、「では実際に予定している子どもの人数は何人ですか」という質問に対する回答となると、全国平均の 2.01 人に対して港区は1.61人とかなり下がってしま う。2人を切ってしまうんですね。
なぜそうなるのか調べてみたところ、住まいに付随する経済的な負担が理由として浮 かび上がってきたんです。
もうひとつは晩婚化や晩産化の影響でしょう、はたして子育てを全うできるかどうか 不安だとの声も聞かれます。
また、それぞれの人生設計や家庭の理想像も多様化する一方で、必ずしも結婚や出産を望む方ばかりでもなくなってきているんです。
いずれにせよ、港区としては区民の住まいに関する満足度の向上はとても重要なテーマと捉えていますから、これからも様々な負担軽減策を講じていきたいと考えていま す。
誰もが共存できる「バリアのないまち」を目指して
──これからは、どんな港区を目指してまちづくりを進めていくのでしょうか?
港区は区民の皆様がいつまでも住みなれたまちで暮らし続けられるように、特別養護老人ホームを区内に設置する方針を立て、これまで整備をしてきました。
従来、用地取得の難しさなどから同様の施設は郊外や地方都市に作られることが多かったのですが、入所者にとってはなにより住みなれたところがいちばん。
区内であればご家族の方も会社の行き帰りなどに気軽に立ち寄れて、それまでと同じように日常的な交流が保てますから。
都心という立地でこれを実現するためには財政上負担がかかりますが、区民一人一人のライフステージに応じた支援のありかたを考えた場合、暮らしやすさはもちろんのこと、希望する限りいつまでも住み続けられるまちであるという安心感以上の価値はないのではないかと考えています。
これからも子どもから高齢者、障害のある方まで、誰もが共存できる「バリアのないまち」を目指していきたいと思っています。
「子育てするなら港区」港区の子育て支援を紹介
港区は安心して子どもを産み、育てることができる切れ目のない「子育て支援」を行っている。
出産費用助成(上限額81万円)、第2子以降の保育料無料、認可外保育施設と認証保育所の助成拡充(短時間の保育施設利用にも適用)、認可保育園と区立小中学校給食費の無料化の他、区が独自に児童相談所を設置(特別区で4番目、政令指定都市を除いて全国で7か所目)。
児童相談所には児童福祉司や児童心理司が配置され、地域と連携して子どもの命と権利を守るための支援が行われている。
さらに、さまざまな相談窓口になっている子ども家庭支援センターと、安定した生活と自立の支援を行う母子生活支援施設を合わせて「港区子ども家庭総合支援センター」として整備。子どもと家庭に関するあらゆる相談に迅速かつきめ細やかに対応している。
また、医療的ケア児・障害児の集団保育も行う元麻布保育園を開設するなど、障害を持つ子どもの社会性を育む支援も行っている。
港区が進める高齢者福祉施策
港区の高齢者比率は全国平均を下回っている。だが、高齢者人口は増加。それに伴って認知症の患者の数も増えている(2019年度の港区保健福祉基礎調査では、区内在住の65歳以上の人のうち、認知症の症状がある又は家族に認知症の症状があると答えた人は10.1%)。
現在、港区では認知症になっても住みなれた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生」の実現を目指し、医師会と連携して「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」予防の普及啓発や早期発見・対応の支援体制を強化している。
その1 港区医師会が区の健康診査・がん検診を受ける50歳以上の区民を対象に、 認知症セルフチェックシート健診の受診を勧奨、実施。
その2 認知症セルフチェックシート健診の健診結果について、区が本人同意のもとで医師会と共有。対応が必要とされる高齢者への個別支援につなげている。
その3 区内5か所の高齢者相談センターに、看護師や保健師の資格を有する認知症支援コーディネーターを配置。認知機能の低下が見られた高齢者に対し、電話や訪問などによる状況確認と必要な個別支援を行っている。
他方、健康でなおかつ社会福祉に貢献したいという意識をもつ60歳以上の区民には、個々の能力の再開発を目指す学びの場が用意されている。
チャレンジコミュニティ大学
2007年度に開校した「チャレンジコミュニティ大学」は、港区が明治学院大学に業務委託して同大学内に開設。60歳以上の方がこれまで培ってきた知識・経験の地域における有効活用とさらなる生きがいの創造を目的としている。これまで第1期生から第15期生まで約860名が、地域コミュニティ活性化のリーダーとしてさまざまな分野で活躍中だ。
港区の住まい支援を解説!
若い世代への住まい支援
港区では若者や子育て世代に良好な住環境を提供できるよう、区民向け住宅(区立・特定公共賃貸)への入居優遇を推進している。また、最大1%の金利優遇となる住宅金融支援機構のフラット35を活用し、子育て世帯の支援につなげていく。
高齢者への住まい支援
さまざまな理由で住み替えが必要な高齢者が住まいを確保できるよう、民間賃貸住宅の紹介、入居費用の一部助成、債務保証会社の紹介(保証人がいない場合などに区と協定を締結している債務保証会社を紹介)、債務保証会社の初回保証委託料の助成などを行っている。
また、独居の高齢者が万が一孤立死をとげた場合、家主が被った損害を区が加入している保険によって補償する仕組みも作られている。
このほか、民間の不動産の関係団体、社会福祉協議会を交えた居住支援協議会を設け、高齢者等の住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居に向けた支援を検討していく。
高齢者自立支援住宅改修給付
転倒予防など、高齢者の生活の質を確保することを目的とする住まい内部の改修費用を助成。
建築物耐震化促進
住宅、共同住宅、緊急輸送道路沿道建築物等に対して、 耐震化に関する支援を行っている。 耐震アドバイザー派遣や耐震診断、耐震補強設計、 耐震改修工事、建替え・除却の費用を助成している。
マンション管理計画認定制度
現在、区民の9割以上が分譲・賃貸マンションを含む共同住宅で生活しているため、港区ではこれから急激な増加が見込まれる老朽化マンションの対策として「港区マンション管理計画認定制度」を創設して備えを進めている。
これはマンションの管理組合が作成・申請した管理計画を区が審査し、修繕や管理方法、資金計画、管理組合の運営状況などで一定の基準を満たした場合に認定を受けられる制度。建物が評価されれば資産価値も上がることから、区分所有者の管理への意識向上と自主的な取組みの促進に繋がると期待されている。その他、認定マンションには次のようなメリットがある。
その1 マンション共用部分リフォーム融資の金利優遇等
管理組合が大規模修繕工事を行う際に利用できる住宅金融支援機構による融資制度。認定を受けたマンションは金利が年0.2%引き下げられる。
その2 認定マンション購入者が利用できる金利優遇
認定マンションの購入にフラット35を利用する場合、当初5年間の金利が年0.25%引き下げられる。
その3 マンションすまい・る債の利率が上乗せされる
認定を受けたマンションが国の許可を得て住宅金融支援機構が発行するマンションすまい・る債(マンション管理組合のための利付10年債権)を購入する際、利率が上乗せされる。
在宅避難への備えを支援
今後30年間に70%の確率で首都直下型地震が発生するといわれている。大きな地 震が起きた際、建物に被害がなければ自宅で生活を続ける在宅避難が原則となる。港 区では在宅避難の備えとして様々な支援を行っている。
その1 携帯トイレの全世帯人数分無償配付
令和5年度に、1 人20回分の携帯トイレを全世帯へ世帯の人数分配付。令和6年度 に新たに港区に転入する世帯や、子どもが生まれた世帯にも人数分配付する。
その2 高層住宅への防災資器材助成
地階を除く6階以上20戸以上の高層住宅を対象に、発電機や蓄電池、エレベーター 停止時に利用できる電動階段運搬車など、区が定めたメニューから希望する防災資器 材を限度額の範囲内で現物助成している。
その3 共同住宅のエレベーター閉じ込め対策
飲料水やアルミブランケットなどの非常用品を収納したエレベーター用防災チェア またはキャビネットを、希望するすべての共同住宅に無償で配付している。また、エ レベーター保守事業者の指導のもと、普段利用しているエレベーターで閉じ込められ た場合を想定した訓練を実施している。
※2024年取材時点の情報です
(取材・執筆/木村光一 撮影/高木航平)