「レミちゃんの料理は簡単だけど美味しい」って。それが『料理愛好家・平野レミ』の最初だったの
シャンソン歌手で料理愛好家の平野レミさんは、ご主人のイラストレーター、故・和田誠さんと建てたこだわりのご自宅に住まれています。そんなお住まいでの和田さんとの思い出やレミさんが料理愛好家としてデビューするきっかけ、提唱する「ベロシップ」についてインタビュー後編ではお話を伺っていきます。
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【インタビュー前編はこちら】「お家の設計で1番重要なのはやっぱり『キッチン』ね」平野レミさんのレシピが生まれる“特注”自宅キッチンとは
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料理のエッセイなんて100回言われて100回断るくらい嫌だって言ったんだけど
――そもそも、レミさんが「料理愛好家」になったきっかけというのは?
平野レミ(以下、平野) 私が料理のことを一生懸命やるようになって、テレビなんかにも出るようになったのは全部、和田さんのおかげなの!
和田さんはもの静かな人なんだけど、お友達がいっぱいいるのね。結婚して青山のマンションにいた頃から、いろんなお客さんが遊びに来て、私がお料理してみんなにごちそうしていたの。
和田さんの友達にピアニストの八木正生さんという方がいて、すごくグルメだったの。
当時はまだグルメなんて言わずに“食通”って言ってたけど、フランスまでトリュフを食べに行って「今年のトリュフは美味しかったよ」なんていう凄い人。
その八木さんにも私のお料理を食べてもらってたの。そしたら「レミちゃんの料理は簡単だけど美味しいね」って言ってくれたのよ。
その八木さんが『四季の味』って料理雑誌で食についてのエッセイを書いて、次に書く人を推薦するリレー形式の連載だったんだけど、なんと私に振ってきたの。
私はエッセイなんて書いたことがないし、嫌だって断ったんだけど、「レミちゃんのこういう料理がいいんだよ。いいから書いてみて」と言うの。100回言われて100回断るくらい嫌だって言ったんだけど、こうなったらしょうがないかなって。
それで私がエッセイを書いた『四季の味』が出たんだけど、そうしたら「ぜひ、こういう簡単な、口で伝えてパッとできるお料理をうちのテレビでやってくれ」とか「雑誌でやってほしい」とかって話が来るようになった、それが『料理愛好家・平野レミ』の最初だったのよ。
だから、今の私があるのは、和田さんの知り合いの八木さんのおかげ。
和田さんは、私より、私の料理が好きだったのかも(笑)
――レミさんの料理の腕があがったのは和田さんのおかげだとか
平野 そう。和田さんは絶対にまずいって言わないの。絶対にお料理をけなさない。
ちょっと口に合わなくても「もうちょっとこうすると美味しくなるよ」って言ってくれて、そうやると本当においしくなっちゃうから、私も「美味しくなって良かった。じゃあ次はもっとこうしよう」ってどんどん料理しちゃう。
私と結婚した時に、和田さんが『レミの料理を死ぬまでにどれくらい食べられるかな』って言ったの。計算してみたら何万回。思ったよりも少ない。
私はもっと何億回とか食べられると思っていたの。それで「意外と少ない!これは大変だ」と思ったの(笑)。和田さんのために頑張って美味しいご飯をこれからはもっと作らなきゃって。
和田さんはパーティーがあっても絶対に外では食べないで帰って来るし、私の料理を食べてからパーティに出かけることもあったわ。
お茶一杯でも「レミが入れたお茶は美味しい」って言うんだもの。私より、私の料理が好きだったのかもね(笑)。
そうそう、それから和田さんは映画がめちゃくちゃ好きだから、自宅のリビングには天井からスクリーンがビーッて出てくるようにしてたの。
そこに映写機で映画を流して、よく友達を呼んで映画を観てたわ。好きな映画を観ながらお酒を飲むの。それで私がご飯やおつまみを作ったりしてたね。
上野樹里さんも和田明日香さんも私が作るのと同じ味
――二人の息子さん、唱さんと率さんにはどんな「食育」をされていたんですか?
平野 子どもたちには、宿題をやる時は「勉強部屋には入らないで、キッチンでしなさい」なんて言ってましたね(笑)。
私一人で料理してるのもいいんだけど、子どもたちの話を聞きながらお料理するほうが楽しいと思ったの。そうやっているうちに、それがなんとなく習慣になっちゃったのよ。
勉強をしながら、耳から「今、お母さんはどんなお料理を作ってるのかな」っていうのが聞こえるのっていいじゃないですか。
子どもたちも、包丁でまな板をトントン叩いてる音から、「僕たちのためにお料理を作ってくれてるんだ」って感じると、幸せと美味しさがより出てくるんじゃないかな。
うちの2人の息子はすっかりおじさんになっちゃったけど(笑)、いまでもお料理が大好きで、とっても上手いのよ。私の方からそういう風に差し向けたわけじゃなくてね、料理する私を見て、音を聞いて、匂いを嗅いで育ったからかなって思うの。
それで2人の息子のどっちの家に行っても、私と一緒のものを作ってるの。それは、息子たちが家で「こういうの作って」なんて言ってるからじゃないのかな。
だから、お嫁さんたちが作ってる料理は私と味が似てるのよね。
唱(トライセラトップス)の奥さんの樹里ちゃん(女優の上野樹里さん)の料理も、次男の奥さんのあーちゃん(食育インストラクターの和田明日香さん)の料理も、私が作るのと同じ味だから、なんだかホッとするのよね。
よその家に行って料理を出されると、「これ食べなきゃいけないけど、不味かったらどうしようかな…」と思うけど(笑)、何の心配もいらないもんね。なんせ、もうベロが同じだから。
ちょっとのひと手間で家族の絆が深まる料理のヒミツ
――レミさんは、味覚で家族がつながる「ベロシップ」を提唱されていますよね
平野 そうそう。スキンシップと同じくらい「ベロシップ」が大事なのよ。
スキンシップをしていい子いい子って言いながら、食事はレトルトのものを買ってきて、チンして「早く食べなさい」っていうのはちょっと違うんじゃないかな。
ちゃんとベロシップで親子が繋がって、手作りのものを食べさせてほしいと思うの。
なかなか今はね、皆さん忙しくて時間がなくてレトルトやチンに頼りがちですよね。レトルトがだめなんじゃなくて、そこにちょっとしたひと手間を加えて我が家の味にする工夫があればベロシップになるのよね。
たとえばカレーを買ってきて、そのままチンして出すんじゃなくて、そこに野菜を加えたりクミンとかガラムマサラをちょっと入れたりすればいいんです。
そのひと手間で家族の絆って深まるんだよね。それが「ベロシップ」だと思うの。
私の新しい本『平野レミの自炊ごはん せっかちなわたしが毎日作っている 72 品』にもそういった面倒がかからないラクできて美味しいレシピをまとめましたけど、レンチンも缶詰でも上手に使って、美味しいお料理を作るのがベロシップには一番なの。
久米宏さんは「お昼の時間が苦痛でしょうがなかった」って(笑)
――レミさんは、お料理を食べるのも大好きなんですか
平野 美味しいものを食べるのは好きよ。お店で美味しいもの食べると、これ自分でも作ってみようって思うしね。
一緒にラジオをやっていたアナウンサーの久米宏さんが、本の中で私のことを「彼女と一緒に食事に行くと『まずい!』って平気で言うし、厨房まで行って『こんな美味しいもの誰が作ったの!?』って言う時もあって、両極端。だから一緒にご飯を食べるだけで大変だし心配だ」なんて書いてるの(笑)。
「お昼の時間が苦痛でしょうがなかった」って。
一度、家族4人でスペインに行った時、野菜の冷製スープを飲んだら本当に美味かったからさ、一口食べて「美味しい!」、また一口食べて「美味しい!」って最後までずっと言ってたら、息子2人が「みっともないからやめろ」って怒っちゃってさ(笑)。
まだ子どもたちが小さい頃だったんだけど、「みっともない」って怒るわけ。でも本っ当に美味しかったから、しみじみと一口ひとくち「美味しい」って言っちゃったの。「あんなに恥ずかしいことはなかった」って今でも息子たちには言われます。
最初にこだわって設計して建てたから今でも自宅は快適
――話題をご自宅に戻しますが、これまでにお住まいをリフォームをされたことは?
平野 キッチンについては前回話した通り、家を建てて1年後に、今も使ってる特注キッチンに変えました。取り替えたドイツ製のシステムキッチンは、雑誌の編集長が欲しいと言うのであげちゃったの。
それから次男が生まれてから自宅を増築しましたね。もともとは和田さんと私と唱の3人が住むように設計してあったから、次男が生まれちゃったもんでびっくりしちゃってさ。
唱の部屋しか作ってなかったから。急いで大工さんに頼んで作ってもらいました(笑)。
快適にするっていう点では、床暖房は最初から入れてましたね。あとはセントラルヒーティングも。だから、どこの部屋に行っても、真冬でも、暖かかったの。
でも維持費が大変だったのでセントラルヒーティングは止めちゃったの。
あとはお風呂かな。もともとは24時間入れる温泉風呂だったんだけど、使っているうちに下の階に水漏れしするようになって、修理すると大工事が必要だっていうので、温水器に変えました。水回りは長く使っているとどうしても痛むのよね。
それ以外だと特にないかな。最初にこだわって設計して建てたのが良かったのかもね。今も快適ですよ。
家は「わたし」、私自身です。
――レミさんにとって、ご自宅はどんな場所でしょうか
平野 「わたし」、私自身ですね。家が大好きです。お家にいるのがほんとにもう大好き。
お料理している時以外では、猫をかわいがったりしてるの。猫も大好き。
あとはお茶ですね。いつもお茶を飲んでるの。猫を抱っこして、庭に飛んでくる鳥を見てさ、今は梅の花が咲いてて、そこにウグイスだかメジロだか、どっちかわかんないんだけど(笑)、飛んできたのを見たり。
お庭には、いろんな鳥が飛んできますよ。あと、おっきなカエルも来て、家の中を立ち上がって覗き込んだりするのよ。
家のことに関して、和田さんには本当に好き放題のこと言っちゃってさ、悪いことしたなぁ(笑)。
三島に家を建てようって時も、和田さんは車が大っ嫌いなんだけど、車が必要だから免許取って、車も買ったの。でも、三島に住みたくないって私が言い出して、車も売っちゃった(苦笑)。
大好きな家に住めるのは、本当にありがたいですね。朝、起きるでしょ。で、お日様がバーっと照って部屋の中に陽の光が入ってきて、庭には緑がいっぱいで。私、いつも「和田さん、ありがとうね」って言っちゃうの。写真を見てね。和田さんはいつも笑ってるのよ。
こんな快適で楽しい暮らしができて幸せだって誰かに話したら、「それは先祖がいいことをいっぱいしてきたから、今、レミさんが幸せなんですよ」って言うの。
だからさ、もし私もいいことをしなかったら、孫とかひ孫とか玄孫が変な風になっちゃいけないから、今から頑張って世の中のために良いことしなくちゃって思っています(笑)。
(取材・執筆/牛島フミロウ 撮影/本永創太)
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