
対象となる特定建築物では外壁を含む定期調査・報告が義務付けられている
建築基準法第12条では、国が定める建築物や特定行政庁が指定する特定建築物について、敷地・構造・建築設備の定期調査と結果の報告を義務付けています。外壁の劣化や損傷の状況は、この定期調査に含まれる項目のひとつです。
法定の外壁調査とは
一級建築士、二級建築士または建築物調査員が、外壁の損傷や劣化の状況を調べること
すべてのビルやマンションに一律の報告義務があるわけではありません。建物の用途や規模に加え、所在地を管轄する特定行政庁の指定も確認しましょう。定期調査の報告時期と、外壁の全面打診等を行う時期は同じではありません。

| 区分 | 時期・内容 |
|---|---|
| 定期調査・報告 | 建物の用途や規模などに応じ、おおむね6か月〜3年の間隔で特定行政庁が定める時期に実施します。タイル、石貼り等(乾式工法を除く)、モルタル等の外壁は、原則として手の届く範囲を打診し、そのほかの範囲を目視します。 |
| 外壁の全面打診等 | 竣工、外壁改修または前回の全面打診等から10年を超えた後、最初の定期調査で、落下により歩行者などへ危害を加えるおそれがある部分を調査します。テストハンマーによる全面打診のほか、同等以上の精度をもつ赤外線調査なども選択できます。 |
定期調査で異常が見つかった場合は、10年を待たずに全面打診等が必要です。一方、3年以内に外壁改修等を行うことが確実な場合や、所定の安全対策が講じられている場合などは、全面打診等を省略できることがあります。2026年7月時点では、性能が確認された落下防止措置付き外壁タイルも、施工記録などの条件を満たせば安全対策を講じたものとして扱われます。法定の定期調査・報告は建物の所有者に義務付けられ、所有者と管理者が異なる場合は管理者が義務を負います。
※ 参考1:e-Gov法令検索「建築基準法」第12条
※ 参考2:国土交通省「建築基準法に基づく定期報告制度について」
※ 参考3:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」
※ 参考4:国土交通省「落下防止措置付き外壁タイルの性能検証方法について」(2026年7月21日)
外壁調査の一般的な流れ
外壁調査は、専門業者に依頼するのが一般的です。依頼先を探してから調査報告書を確認するまでの流れを把握しておくと、業者との行き違いを防ぎやすくなります。

- 業者を探して問い合わせる
インターネットや知人の口コミを活用し、信頼できる業者を探します。口コミと実績の両方を確認すると、依頼先を比較しやすくなります。法定の定期調査を依頼する場合は、一級建築士、二級建築士または建築物調査員が調査を担当できるかを確認してください。対象建築物や報告方法がわからないときは、建物所在地を管轄する特定行政庁の定期報告窓口へ相談できます。担当部署の名称は自治体によって異なります。 - 見積もりを依頼する
業者を見つけたら、見積もりを依頼します。調査費用は、方法や建物の状態・規模に加え、業者によっても異なります。複数の業者から見積もりを取り、価格と調査内容を比較しましょう。相場から極端に外れる見積もりは、詐欺やトラブルのリスクを考慮し、慎重に確認する必要があります。 - 契約する
納得できる業者を選んだら、外壁調査の契約手続きに進みます。契約前に、調査の流れや支払い方法など、気になる点を確認してください。契約後のトラブルを防ぐため、疑問や不安はそのままにせず、事前に解消しておきましょう。 - 外壁調査の実施
契約後に外壁調査を行います。所要期間の目安は、打診調査が数日から1週間、赤外線調査が1日です。 - 調査報告書の確認
外壁調査後は、業者が作成した調査報告書を確認し、今後の外壁メンテナンスを検討します。調査結果に誤りや不明点がないか、業者との認識にずれがないかも確かめてください。
法定の定期調査に該当する場合にやるべきこと
定期報告の対象建築物で、特定行政庁が定める報告時期に該当する場合は、調査結果を特定行政庁へ報告します。報告義務を負うのは建物の所有者で、所有者と管理者が異なる場合は管理者です。任意の外壁調査を行っただけで、すべての建物に報告書の提出義務が生じるわけではありません。
※ 参考:e-Gov法令検索「建築基準法」第12条
外壁調査の費用相場
外壁調査の費用相場は、打診調査が1㎡あたり250〜700円、赤外線調査が1㎡あたり100〜350円が目安です。㎡単価は調査面積が広いほど安くなる傾向があります。建物の高さや形状、調査範囲、足場・ゴンドラ・ロープの使用、報告書作成や交通費などが費用に含まれるかによっても変動するため、見積もりの内訳を確認しましょう。

| 方法 | 費用相場/㎡ |
|---|---|
| 打診調査 | 250〜700円 |
| 赤外線調査 | 100〜350円 |
費用相場は、高所作業が必要な打診調査のほうが高い傾向にあります。仮設足場を使う場合は、設置・解体費用や人件費が加わり、総額が高くなります。一方、赤外線調査では、撮影に加え、事前調査や画像解析、報告書作成などの費用がかかります。これらが㎡単価に含まれることもありますが、ドローンの飛行許可申請、部分打診、交通費、警備員・安全対策費などは別途請求される場合があります。見積もりでは、これらの内訳を確認してください。調査方法ごとの費用だけでなく、必要な精度や追加費用も踏まえて、適した方法を選びましょう。

外壁調査が必要な理由
外壁調査が必要な理由は、建物の損傷を防ぐこと、周囲の安全を守ること、災害時の被害を抑えることの3つです。

建物の損傷を防ぐ
外壁調査は、ひび割れや浮き、剥がれなどを早期に見つけ、劣化の進行を抑えるために欠かせません。劣化を放置すると、外装材の落下や雨水の浸入につながり、下地や躯体に影響が及ぶおそれがあります。建物を長く安全に維持するには、適切なタイミングで外壁を調査し、状態に応じた補修を行う必要があります。
建物の周辺環境を守る
外壁調査は、外装材の落下による人身事故や周辺建物への被害を防ぐためにも必要です。劣化した外装材が歩行者に当たれば、取り返しのつかない重大事故につながります。周辺の建物に落下すれば、損害や近隣トラブルを招くおそれもあります。建物だけでなく、周囲の人や環境を守るためにも定期的な調査が欠かせません。
災害時の被害を最小限にする
外壁調査で劣化や損傷を把握し、必要な補修を行うことは、地震や台風などの際に外装材が落下するリスクを抑えることにつながります。ただし、点検や補修を行っても、災害時の安全が必ず保証されるわけではありません。建物の状態や立地条件に応じて定期的に点検し、指摘された不具合に早めに対応することが大切です。
外壁調査の方法
外壁調査では、外壁の仕上げや建物の状況に応じて、目視や打診、赤外線調査などを使い分けます。法定の全面打診等では、テストハンマーによる打診と同等以上の精度が確認された赤外線調査も採用できます。また、有機系接着剤張り工法の外壁タイルは、施工記録などの条件を満たせば、引張接着試験で確認する方法もあります。
※ 参考1:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」
※ 参考2:国土交通省「外壁の外装仕上げ材等の調査方法について」
打診調査
打診調査とは、ハンマーや打診棒で外壁を叩き、音の違いから劣化や損傷の有無を判断する方法です。正常な箇所と音を聞き分けるため、目視ではわからない異常も発見できます。目視や触診も組み合わせ、専門家が外壁の状態を詳しく確認するのも特徴です。建物によっては仮設足場やゴンドラ、ロープが必要となるため、ほとんどのケースで費用や時間がかかります。
赤外線調査
赤外線調査とは、赤外線カメラで撮影した外壁の表面温度差から、タイルなどの浮きの有無や程度を調べる方法です。地上に設置した装置だけでなく、赤外線装置を搭載したドローンを使う方法もあります。足場やゴンドラを使わずに広い範囲を調査できる場合がありますが、撮影だけで完了するわけではなく、事前調査や熱画像の分析、浮きの判定が必要です。また、天候や気温、風、日射、タイルの種類、撮影角度、離隔距離、壁の形状などによっては赤外線調査に適さない部分があるため、打診を併用することもあります。
打診調査と赤外線調査を併用する方法もある
調査の精度を高めるため、赤外線調査で外壁の劣化や損傷が見つかった箇所を、打診調査でさらに詳しく調べることがあります。また、立地条件によって赤外線調査だけでは判定が難しい場合は、打診調査を組み合わせます。

※ 参考:国土交通省「赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」
外壁調査の対象か確認する方法
外壁を含む法定の定期調査・報告は、すべての建物に義務付けられているわけではありません。国が一律に定める対象に加え、特定行政庁が地域の実情に応じて対象を追加指定することがあります。国が定める主な対象用途と規模は、以下のとおりです。

| 建物の用途 | 条件(いずれかに該当するもの) |
|---|---|
| 劇場・映画館・演芸場 | ・3階以上または地階に、その用途に使う部分が100平方メートルを超えてあるもの ・客席部分の床面積が200平方メートル以上のもの ・主階が1階にないもの |
| 観覧場(屋外観覧場を除く)・公会堂・集会場 | ・3階以上または地階に、その用途に使う部分が100平方メートルを超えてあるもの ・客席部分の床面積が200平方メートル以上のもの |
| 病院・有床診療所・ホテル・旅館 | ・3階以上または地階に、その用途に使う部分が100平方メートルを超えてあるもの ・2階の該当用途部分が300平方メートル以上のもの。病院・診療所は、2階に患者の収容施設がある場合に限る |
| 高齢者・障害者などが就寝に利用する一定の施設 | ・3階以上または地階に、その用途に使う部分が100平方メートルを超えてあるもの ・2階の該当用途部分が300平方メートル以上のもの |
| 体育館・博物館・美術館・図書館・ボーリング場・スキー場・スケート場・水泳場・スポーツ練習場 | ・3階以上に、その用途に使う部分が100平方メートルを超えてあるもの ・該当用途部分の床面積が2,000平方メートル以上のもの ※ 学校に附属する施設を除く |
| 百貨店・マーケット・展示場・飲食店・物品販売店舗など | ・3階以上または地階に、その用途に使う部分が100平方メートルを超えてあるもの ・2階の該当用途部分が500平方メートル以上のもの ・該当用途部分の床面積が3,000平方メートル以上のもの ※ 床面積10平方メートル以内の物品販売店舗を除く |
「高齢者・障害者などが就寝に利用する一定の施設」には、サービス付き高齢者向け住宅、認知症高齢者グループホーム、障害者グループホーム、助産施設、乳児院、老人ホーム、障害者支援施設などが含まれます。ただし、対象規模に該当する建物でも、避難階以外の階を対象用途に使用していない場合などは対象外となることがあります。用途の範囲には細かな条件があり、特定行政庁が対象を追加指定することもあるため、建物所在地を管轄する特定行政庁のホームページも確認しましょう。

「住宅」は外壁調査の対象外となる場合が多い
一般的な住宅の多くは、建築基準法に基づく外壁調査の対象外です。ただし、法定調査の対象外であっても、専門業者による定期的な点検と適切なメンテナンスは欠かせません。
※ 参考1:国土交通省「建築基準法に基づく定期報告制度について」
※ 参考2:e-Gov法令検索「建築基準法施行令」
定期調査・報告をしなかった場合の罰則と損害賠償責任
外壁の調査を含む建築基準法第12条に基づく定期調査は「12条点検」と呼ばれることがあります。マンションでも定期報告の対象建築物に該当する場合があり、報告を怠ると罰則の対象となる可能性があります。また、外壁の落下などで他人に損害を与えた場合は、損害賠償責任を問われることがあります。

罰金
建築基準法第12条第1項または第3項などに基づく報告をしなかった人や、虚偽の報告をした人は、同法第101条により100万円以下の罰金に処される可能性があります。
※ 参考1:e-Gov法令検索「建築基準法」第101条
※ 参考2:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」
賠償責任
外壁の落下などで他人に損害を与え、建物の設置または保存に瑕疵があると認められた場合は、民法第717条に基づく損害賠償責任を問われることがあります。原則として、まず建物の占有者が責任を負い、占有者が損害の発生を防ぐために必要な注意をしていた場合は所有者が責任を負います。ただし、所有者自身が建物を占有している場合など、具体的な責任の所在は個別の状況によって異なります。
※ 参考:e-Gov法令検索「民法」第717条
【Q&A】外壁調査に関するよくある質問
外壁の全面打診調査で対象外となる部分は?
外壁の全面打診等では、落下により歩行者などへ危害を加えるおそれがないと判断される部分は対象外です。具体的には、壁の高さのおおむね2分の1以内の範囲に、公道や、不特定または多数の人が通る私道・構内通路・広場がない壁面などが該当します。また、壁面直下の強固な屋根や庇、通常は人が立ち入らない植え込みなどで落下物の影響範囲が完全に遮られている部分も、対象範囲から除かれる場合があります。ただし、屋根や植え込みがあるだけで自動的に対象外になるわけではありません。判断が難しい場合は、建物所在地を管轄する特定行政庁へ確認しましょう。
建物の外壁が劣化しているサインは?
建物の外壁が劣化しているサインには、ひび割れや塗装の剥がれなどがあります。

劣化を放置すると、外壁材の損傷や落下に加え、建物の躯体まで傷むおそれがあります。被害が広がる前に、適切なタイミングで外壁調査を行うことが大切です。















