リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都中野区・酒井直人区長

中野区は「人」を大切にする『子育て先進区』。ずっと住み続けたくなるまちをつくっていきたい

新宿から電車ですぐの距離にある東京都中野区は、利便性が高いながらも、昔からの住民も多く住む住宅街。学生が多く住み、大企業の本社もあることから活気あるまちであるものの、子育て世代の転出が多いという課題も。
その課題に立ち向かうのが、酒井直人区長だ。「子育て先進区」のスローガンを掲げ、数々の独自政策を展開して注目を集める酒井区長の挑戦について伺った。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都中野区・酒井直人区長

中野区は、都心に近い、ゆっくり住める住宅地というのが特徴です。まず、交通の便が非常に良いまちですね。区内には複数の鉄道とバスが走っていて、新宿や池袋などの主要駅まで短時間で移動できます。

人口構成では、20~30代が多いですね。また、区内に大学や専門学校が複数あることから、10代後半の若者も多く暮らしているので、非常に活気があふれるまちです。

あとは大手企業の本社があることで、オフィスワーカーも多いです。その点も、まちの賑わいを形成する要素として大きいと思います。

外国籍の方も増えていて、現在は120を超える国と地域の方が生活しています。

国内からも中野に移り住み、新たな生活をスタートさせる方がたくさんいます。様々な人が暮らし、訪れ、活躍する、多様性に富んだまちなんです。

私は、さまざまな機会を通じて、中野の最大の財産は“人”であることを痛感しています。

中野区は住民同士の繋がりが強く、助け合いの精神があります。その側面として、「地域活動が活発なこと」が挙げられます。都会にしては町会が盛んですし、学校だとPTAや、生徒の父親たちが“親父の会”をつくり学校行事のサポートを熱心に行っていますね。

要するに、区民に『中野は我らのまちだ』という感情があり、中野に対する愛着が強いということです。

中野は、情に厚く、あらゆる個性を受け入れるまちです。学校が多いとお話しましたが、地方から出てきた学生を支える風土もあります。そういった昔からの変わらぬ良さも、変化し続ける発展性も兼ね備えた魅力があります。

現在、中野駅周辺を始め、中野というまちは変化し続けていますが、人と人とのつながりや絆の深さは変わりません。

中野区は、都心部へのアクセスが良くて、家賃が手頃な民間賃貸住宅が多いことなどから、若い単身世帯が住まいを見つけやすいまちです。私も学生の頃から中野に住んでいます。

転入超過が続く一方で、子育て家庭については転出超過となっているのが現状です。結婚して中野から出ていく、子どもが生まれて大きくなるにつれて住みやすい物件が見つからず郊外に出ていく、という人が多いんです。

少子高齢化が進んでいるので、地域の活力を持続するためには、将来の担い手である次世代を育てる子育て家庭が住みやすく、住みたい・住み続けたいと思うまちにしていくことが絶対に必要だと思っています。

例えば、中野区は公園の面積が少なく、子どもの居場所・遊び場となる場所や施設が限られているため、子育て家庭からは、「子どもや乳幼児親子が自由に過ごせる居場所があったら」「雨の日でも遊べる屋内施設がほしい」などの声をいただいています。子どもの預かり関連サービスに関するニーズなどもあります。

また、ライフスタイルの多様化や、多文化共生の推進に伴って、高齢の方や障害のある方、外国の方など、様々な世帯が暮らすことのできる環境を整えていく必要があります。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都中野区・酒井直人区長

中野区には約30万人を超える人が住んでいます。人口減少、超高齢社会という時代ですが、人と人との交流やつながりを広げて、誰ひとりとして取り残されることのない安全で安心な地域社会を築き、持続可能なまちづくりを進めていくためにも、出生率の向上や子育て家庭の定住を図っていく必要があると考えます。

そのため、『子育て先進区』として、多くの子どもと子育て家庭から選ばれるまちにしていくことを掲げて、重点政策として注力してきました。

私が区長になって大きく政策転換したのは、区内の児童館を全部なくす計画をやめて残したこと、公立保育園の民営化が決まっていたのを止めたことです。

決して保育園の民営化が悪いとは思わないのですが、民営化が進むと待機児童問題が出た際に定数の調整が非常に難しいんです。

需要と供給のバランスだけで保育園の定数をコントロールするのは無理があるんです。子育てをするために必要なインフラを公共が持つこと、これはしばらく我々が担っていかなければなりません。そこで、政策を転換したんです。

中野区の待機児童はもともと300人ほど出ていて、一時期は保育園に入れない状況でした。一生懸命保育園をつくりまして、令和4年度に待機児童数がゼロになりました。結果として区内で保育を必要とする家庭の割合が増え、中野区に子育て家庭、共働き家庭が戻りつつあります。これは、中野区が子育てに投資をしていますという視点が大きいと思います。

他には、中野区独自に、ひとり親家庭の支援があります。子育て家庭への実態調査を行って見つかった課題の中で、まずひとり親家庭の支援を開始しました。

ふたり親世帯と比べると、子どもが海水浴や遊園地などに行った“体験”が少ないことがわかったんです。子どもの頃の体験は人生のなかで活きていきますから、それも次世代への投資だと思うのです。

一言でいえば、「次世代に投資をするのは当たり前」ということです。それをやらない自治体はなくなってしまいます。

それは誰もがわかっているはずなのですが、どうしても高齢者が多いので、政治は高齢者に目を向けがちだと思うんです。

だから、中野区が子育て支援に重点を置いた政治の先陣を切ればいいと思っています。他の自治体に、「そんなことをやっていて大丈夫ですか」という警鐘を鳴らしたい気持ちもあります。

子育て支援を声高に言うと、高齢者の中には「なぜ子育て世代ばっかり」という人はいらっしゃいます。しかし、私は次世代にちゃんと投資する区政をすることで、高齢者の皆さんにも「そうだよね、応援するよ」と言ってくださる人たちがいると思っているんです。

多くの自治体では、児童館や保育園、特に幼稚園の公立はほぼ廃止の方向にあるはずです。それは人口動態から鑑みれば、子どもが減っていくので当然かもしれません。一方で高齢者が増加しているのであれば高齢施設を増やした方がいいというのがセオリーなんです。

しかし、高齢者の施設は増やして、子どもの公共施設はどんどん減らしますという自治体に、子育て家庭は住みたい・住み続けたいと思うでしょうか。

ですから、中野区は、区として子育て家庭に向けた政策に力を入れていますよという意気込みを見せていきたいんです。

財政の許容範囲内で、ニッチでもいいから中野区の独自政策をやり、『子育て先進区』のスローガンも常に掲げておきたいと思っています。

実際、区のホームページに『子育て先進区』という言葉が増えてきて、ネット検索で引っかかります。それを見て「中野区は子育て政策を頑張っているんだな」と知り、中野区に引っ越してこられる方はいるんです。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都中野区・酒井直人区長

中野区の65歳以上の人口は年々増加していて、令和5年1月1日時点で全体の20.1%を占めています。約32万人の中野区民のうち、約6万人が高齢者ということになります。

私は中野区職員から区長になったのですが、区の職員として最後の2年間は、地域包括ケア推進担当課長として高齢者福祉、地域包括ケアシステムの推進に携わっていました。

中野区は、高齢者に元気でいていただくための施策が進んでいますね。

わかりやすい例をひとつ挙げると、区内に高齢者会館が16ヶ所ありまして、その運営は基本的に高齢者でつくったNPO法人にお任せしています。

これは、都市部では非常に珍しいんじゃないでしょうか。しかも、そこでミニデイサービスの介護保険事業をやっていただいています。元気な高齢者が運営する高齢者会館に、高齢者が利用者として来て、食事を出し、みんなでサークル活動をする。

いくつかの高齢者会館には通信カラオケを導入して、プログラムにある体操の映像を使って、体操教室やトレーニグ教室をやっていただいたりもしています。

高齢者会館に通っている人は80代、90代です。スタッフは70代の元気な人です。中野の70代は本当に元気な方が多いんです。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都中野区・酒井直人区長

こうした、高齢者の方の日常生活を支えるサービスの提供や、生きがいづくり・社会参加のサポート、誰もが安心して地域で暮らしていける地域包括ケアシステムの推進などに取り組んでいます。

私の職員時代は医療介護連携に特に力を入れていました。一人の患者の情報を医療介護関係者で共有して見守るシステムを東京で最初に始めました。

ただ、情報共有すればいいだけではなく、医療と介護が連携できる仕組みが重要なので、その点に注力しました。中野区はコンパクトな街で、医師会も一つだけですし、医療と介護が仲が良いんです。それもあって、医療介護連携がうまくいっていると感じています。

高齢者の方一人ひとりの状況に応じて、住宅の情報提供や入居に必要となる支援を、区内の協力不動産店、福祉部門の各生活支援窓口・団体などと連携して行っています。

例えば、高齢者の方が入居に関して抱えている不安を解消して、安心して暮らすことができるように、見守りや債務保証、居室内での死亡時の家財の片付けなどを提供するといった入居支援サービスがあります。

また、高齢者など住宅確保要配慮者のみが入居可能な住宅(セーフティーネット専用住宅)のオーナーに対しては、バリアフリー工事等の改修費用の一部を補助するなどしています。

住まいに関する課題は複雑で複合的です。そのため住宅課や不動産団体といった住宅部門と、生活支援行う窓口や団体といった福祉部門とが、連携し合いながら支援を行う体制づくりを進めています。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都中野区・酒井直人区長

キーワードは、“子育て世代も高齢者も歩きやすいまち”です。移動しやすいまちが、これからの都市部では圧倒的な力を発揮すると思います。

物理的に歩きやすいということだけではなく、駅前は、何気なくそこに行くとイベントがやっているような広場が整備されていたり、駅前のビルの中で催しがあったり、路上では芸術家がパフォーマンスをやっているなど、歩行者に魅力を感じてもらえるまちをつくっていくことになります。

ウォーカブルシティという取り組みもありますが、要するに“出かけたくなるまち”にしていくことだと思っています。

現在、中野駅前の再開発、西武新宿線の地下化工事を頑張ってやっており、まちづくりの基盤ができてきています。

出かけたくなるまちをつくっていくことによって、自然と人が集まってくるし、皆さんが気軽に出歩いていただけるようにしていきたいですね。

役所の中にこもらないことです。住民といつでも対話をする、たくさん話を聞く、いろんな情報を取りに行く、これに尽きます。

同じことを職員にも伝えています。席に座っていないで、どんどん外に出て行き、人の話を聞いていらっしゃいと。ニーズを把握しないと、住民に対してのサービスにズレが生まれ、独りよがりの区政になってしまいます。

住民の意見をいろいろと聞いて、自分の意見が本当にこの方向でいいのかどうか、しっかりと確認しながら前に進まないと失敗してしまいます。

私が区長になる以前の中野区が、子育て世代の声をあまり意識していなかったのは、子育て家庭の転出超過を見れば明らかです。

そこをちゃんとやっていればよかったと考え、いろんな人の意見は聞くのですが、区政の基本方針の中では子どもの権利を大切にすると宣言しているので、令和4年に「子どもの権利に関する条例」を制定しました。

子どもの意見を聞いて区政に必ず生かすことが、これからの区政の基本姿勢になります。たとえば公園を作るにしても、ちゃんと子どもの意見を聞いて作る。施設を作る時には子どもの目線を生かす、それをこれからやっていきたいと思います。

また今年度から、区内の小中学校に対して、学校を良くするために“子どもが自由に使える予算”をつけました。予算額は小学校に20万円、中学校に30万円となります。おそらく日本初の試みではないでしょうか。

大人が関与せず、子どもたちだけで何に使うか、何を買うかを相談してもらいます。これが今の僕たちには必要です、ということであればそれは子どもの権利として認める、ということになります。子どもの自由な発想力で、どんな結果が出るのか非常に興味深いです。

これらの施策を通じて、自分の意見が通るかもしれないと感じてもらうことが大事ですね。まちに参画する、というのはそういうことだと思います。

リフォームメディア「ハピすむ」のインタビュー取材を受ける東京都中野区・酒井直人区長

まずは「子育て家庭」の満足度を高めていくことが第一です。その手段として、まちづくりの基盤整備をしっかり着実にやっていかなければいけません。

先ほどお話した、“出かけたくなるまち”というのは、子育て世代に対しても優しいまちにしていく必要があります。

まちづくりの中で、「人」を大切にしているのが中野区です。

中野は、さっき申し上げたように医療と介護が仲良いだけではなく、警察、消防、経済界も非常に協力的で、一緒にまちづくりをしている感覚があります。

そんな人の力を活かせるような形でまちづくりを進めていけば、中野が子育てしやすいまち、老後も安心して健康でくらせるまちになるために、決して間違った方向にはいかないと思います。

もう一つは、今後は外国人の方ももっと増えてくるので、外国人の方々にも活躍してもらえるような環境づくりも大きな課題だと思います。

さらに、駅周辺の再開発によって中野区に加わる新たな住民がどんな人で、どんな規模になるのか、非常に楽しみです。そういう新住民の方々にも区政に関われるような形を考えたいと思っています。

区役所は『総合デパート』なんです。子育て家庭を中心に、区民の皆さんが満足できるような総合的な取り組みをして、「ずっと住み続けたくなるまち・中野」をつくっていきたいと思っています。

※2024年取材時点の情報です。

(取材・執筆/牛島フミロウ 撮影/高木航平)

東京都中野区長
酒井直人さかい なおと
1971年、岐阜県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科修了。1996年、中野区役所に入庁し、区議会事務局、総務部での文書管理や財務会計システム等を担当。総務部広聴広報課を経て、区民サービス管理部国保運営担当係長、2012年に政策室副参事、2016年、地域支えあい推進室副参事(地域包括ケア推進担当)を歴任。2018年に中野区を退職。同年、中野区長選挙に立候補、初当選し中野区長就任。現在2期目。
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